第21話

入院五日目、退院の日。


夫と子どもが迎えに来てくれた。

急遽決まった退院のため、病院側の書類ができていなかったが、後日送付ということで、すぐに退院手続きは終了した。


痛み止めとかゆみ止めを処方してもらった。

薬が無くなったら、市販薬でいいとのこと。

本日も痛み止めはしっかり服用しようと思うほど、痛みを感じる。

処方された10日分では足りないかもしれないので、ドラッグストアでロキソニンは購入しておきたい。


同室の乳がんだった人から、病室を出る時に声を掛けてもらった。

お子さんにどうぞと、おしゃれで美味しそうなゼリーのお裾分けを頂いた。

そんなやり取りが、しみじみと嬉しい。

退院後の診察が同じ日らしいので、もう一度、お会いできそうだ。

どうぞ、ご無事で。


帰宅すると、思ったより部屋が散らかっていた。

「ちょっと〜、なんで片付けてないの〜(怒)」と、開口一番クレームを発してしまった。

ところが、子どもと夫の顔がパッとほころび、「あ〜、いつものお母さんだ!安心した〜」「本当だ〜、いつもと変わってなくて良かった〜、あははは〜」と、とても喜んでいた。


病気になって弱り切っているかもしれないお母さん・妻と、これからどう接していけばいいのか、それぞれ考えていたのだろう。

「私は、そんなにいつも怒ってばかりって言うのかいっ(怒)」

「そ〜だよ〜(笑)」と、どこか緊張の糸が切れたように二人は笑いっぱなしだった。


一息ついてから、「手術した後のおっぱいを皆んなで見てみる?」と提案してみた。

ずっと気になっていたのだろう、二人とも即答で「見たい」と言った。


手術した乳房は小さくなり、乳輪も含めて全体的に、保護シートでカバーされている傷口に向かって、いびつに引き攣れていた。

このままいびつなままなのだろうか?

案外ショックな状態だ。

気を取り直して、「お母さんは、これからこのおっぱいを『頑張ったちゃん』と呼びます」と言ってみた。

子どもは、「そうだね、頑張ったちゃんだね!」と同意してくれ、夫も微笑んでいた。


確認したことで、二人の気持ちに一区切りがついてくれたらいい、と思った。


久々に、大好きなSPITZの曲を聞く。

心の栄養。

やっぱり、最高だ。

手術前は、スワンの「森が深すぎて、時々不安になる」で、涙が出てしょうがなかった。

自分が星になったら、残された人たちはこんな風に苦しむのかな・・・、自分の気持ちも今、森の中で迷子だ・・・と。

最新アルバムだったので聴いていたが、歌詞がタイムリー過ぎた。

だから、この日は、SPITZのほかのアルバムを選んで聴いた。

「幸せは〜、途切れ〜ながらも、続くんですぅ〜」


その後、食材を購入するためスーパーに行ったり、家事をして過ごし、どんどん日常を取り戻していった1日だった。

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