第19話

入院三日目、昨晩は寝返りを打ちつつ、少し起きてはまた眠るの繰り返しだった。

看護師によると、点滴に眠たくなる成分も入っていたとのこと。

そうだったのか。

そこそこ眠れて良かった。


午前中には尿管カテーテルと点滴を外して、ドレーンだけになる。

その作業の時に手術後の胸を見て、温存と言えども随分と小さくなったなぁ・・・と、思う。


ベットから起きて、着替えをしようと立ち上がると、ふら〜っと倒れそうになり、慌てて看護師に支えてもらった。

たった数日寝ていただけで、バランスを保って「立つ」という感覚を体が忘れているようだった。

年を取っても寝たきりにはなるまいと、固く誓った。


吐き気もなく、体調はまずまずだったので、ドレーンから繋がっているパックを入れたポシェットを肩から下げて、少し歩いたり運動をした。

この病院から渡されたポシェットの柄が、とにかくダサい。

でも、パジャマ姿でウロウロしているのだから、どっちにしろ、全てがダサい。

だから、まぁいいじゃないか、という気持ちになった。


自分で歯磨きもできるし、トイレにも行ける。

こんなことが、自由を保障する大切な要素なのだ。


夕方に、夫と子どもがお見舞いに来た。

小学校の開校記念日だったらしく、配られた紅白饅頭を持ってきていた。

皆んなで一緒に食べようと、我慢していたらしい。

「紅白饅頭って、やっぱり美味しいよね〜」と、2個の饅頭を3人で分けっこして食べた。

子どもの気持ちが詰め込まれた今回の饅頭は、格別に美味しかった。


皆んなで、デイルームから素晴らしい夜景を眺めていたが、退屈した子どもはサザエさんの漫画本を見つけ、夢中で読みながら笑い始めた。

テレビアニメでも漫画本でも、とにかくサザエさんが大好きなのだ。

特に、古い漫画本は、コンプライアンスを無視したエピソードと、サザエさんや舟さんのキャラが過激なため、目新しく感じていたようだ。

帰る時間になっても、サザエさんの漫画本を読み続けたくて、子どもはデイルームに長居したがった。


そんな、いつも通りの子どもらしさが、自分の気持ちを日常に戻してくれていた。

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