第17話

入院2日目の朝、病室のベッドから見た朝日は白かった。

自宅から見る朝日はいつも赤いのに。

たぶん、遠くにある丘のせいで、日の出から少し時間が経過した太陽しか見えない立地なのだろう。


朝日を見るのは好きで、自宅でも時間が合えば眺めることが、ままある。

キャンプで、冷える早朝、青い富士山を眺めつつ、コーヒーを飲みながら迎える朝日も格別だ。


それにしても、太陽の光が差し込む瞬間は、ある意味神々しい。

あの光のビームは、物凄いエネルギーだ。

こんなことがいつまで続くのかと、繰り返す思考から抜け出せない夜が明けるあの瞬間、地平線を登ってくる太陽の光から届けられる躍動感は、いつも自分を安堵させるのだ。


病室に備え付けの洗面台で歯を磨き、ベッドに戻って朝食をいただく。

午前中は予定が無かったので、運動不足解消のため廊下を歩き、その先にある窓からの、素敵な景色を眺めに行ったりした。


午後は、アイソトープの検査をした。

同じ病室の人も同じタイミングだったようで、同じエレベータに乗り一緒に地下の検査室へ行く。

そこで、少し言葉を交わした。

自分より10歳くらい年上に見える、気さくな人だった。

一緒に、頑張ろう。


この病院は、放射線など特別な施設は地下にあるのだ。

だから、地下に用事のある患者は、おしなべて軽症ではない、ということでもある。


乳房に打つ、アイソトープの検査の準備のための注射は、思った以上に痛かった。

また痛い思いをしなければいけないのか、これからも何度となく痛い思いをして、我慢しなくてはいけないのか?

もう、一生分の痛みを味わった気がする。

痛みから解放されたいな、そう思いながら我慢した。


数時間後に大きな機械に横たわって撮影をするのだが、一旦、病室に戻らなければいけない。

その帰りのエレベーターで同じ病室の人とまた一緒になり、「すっごく痛かったよね〜」とお互いに愚痴をこぼした。

そう言える人が身近にいて、本当に良かった。


アイソトープの検査時に、体に手術で切開する場所をマジックで印づけされた。

印は、そこそこの大きさだった。

こんなに切るのか・・・、と思った。


夕方は、夫と子どもがお見舞いに来てくれた。

頼んでおいた枕を家から持参してくれて、ありがたかった。

病院の枕は、硬くて、全くリラックスできなかったので。

子どもは、おやつをくれた。

ちっぽけな子が考えた、精一杯の優しさだ。


入院前に子どもは、「皆勤賞を目指しているから学校を休みたくない。だから、手術前の見送りのために、病院には行けない」と言っていた。

でも、どうやら、明日は学校を休んで、手術前に来てくれるらしい。


人生、何が起こるのか分からない。

今生の別れともなるかもしれないから、できれば手術前にも会っておきたい。

大袈裟?

そう笑える日が来るなんて、今のところ、誰も保証してくれていないけど。


こんな風に、がんが見つかった時から、死を身近に据えた考え方に変わっていた。


夕食前に、担当医師が、今度は一人で挨拶に来てくれた。

医師から満面の笑顔で声を掛けて貰ったことで、少し安心した。

ありがとうございます。


でも、この夜は眠剤は飲むことにした。

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