第16話

自分のベットの周りに荷物を置き一段落すると、乳腺科の先生たちが物々しく、ぞろぞろと5人くらいでやって来た。

まさに、白い巨塔だ。

先頭を歩いていた一番偉い先生が、挨拶をしてくれた。

こんな風に徒党を組んで歩いてくるのは、ドラマの中だけだと思っていた。


私の担当医師は、立ち位置からして下っ端のようだったが、後ろの方から声を掛けてくれたので、手術を早めてくれたことに対し、お礼を伝えた。

優しい笑顔が返ってきた。

やっぱり、この先生で良かった。


夫と子どもがお見舞いに来て、子どもから「お母さん、大好きだよ」というミニお手紙を貰った。

大切に、ノートに挟んで仕舞った。

色々思うところはあるだろうが、病院でも、子どもは相変わらず無邪気を絵に描いたような天真爛漫ぶりで、安心した。


夕食は、ご飯がパサついていなくて、まぁまぁ美味しかった。

これなら退院まで、食には困らないだろう。


ところが、別件で、困ったことが起きた。


手術では電気メスを使うので、結婚指輪は外さなければならない。

結婚から十数年経った今、自分は約10キロ増量しており、自力で指輪は外せそうになかった。


よく、おばあちゃんの家で見かける「金のなる木」の葉の根元に、五円玉がどういうわけだかはめられているのと同じ状態に、自分の薬指はなっていたのだ。

まだ葉が小さいうちに五円玉の穴に通し、あとは葉の成長に任せておくだけというカラクリを祖母から教えてもらい、子どもの頃、驚いた。


それと同じ現象が自分の薬指に起きていたのは随分前から分かっていたが、いよいよ困る日が来たのだ。


看護師が二人掛かりで、あの手この手を使い指輪を外そうと協力してくれたが、次第に指が赤黒くなってきたので諦め、手術中に電動ノコギリで指輪を切って外すことになった。

仕方ない、自分のミスだ。

だが、ごめんよ、ティファニー。


指輪のわちゃわちゃに時間が取られ、予約を入れていた入浴時間を半分過ぎていた。

慌てて浴室へ向かい、残りの15分で速攻シャワーを浴びた。


暇な時間は持参したハリー・ポッターを読み、あまり無駄なことを頭の中でぐるぐる考えないようにした。


入院1日目は、そんなこんなで、まぁまぁ慌ただしく過ぎていった。

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