第15話
やっと、入院する日が来た。
病院に着くと、入院患者数人のグループとなり、案内担当のスタッフから入院中の諸々の説明を受けて、9階の病室に案内された。
他にもグループがあり、ピストン輸送のように捌かれていた。
通院している時は気づかなかったが、こういう役割の仕事もあるのだと、驚いた。
なるほど。
とてもニッチな仕事だか、これをする人がいるお陰で、大きな大学病院で目まぐるしく立ち働く看護師が、スムーズに動けているのだろう。
知らなかったな。
病棟の廊下の窓からは、観光地として有名なビルや観覧車などが見えた。
花火の時期なら、とってもよく見える超穴場スポットだ。
これも、知らなかったな。
病室は4人部屋の、窓側だった。
気分転換に外の景色を見られるのは、ラッキーだ。
一緒に案内された人が同じ乳がん患者で、他の二人は、入院して数日経っている別の疾患患者のようだった。
カーテンがほぼ閉められていたので、軽く挨拶だけ済ませ、あまり接触はしないようにした。
そして、仕切りのカーテン一枚では、目隠しができても、音がダダ漏れだから気をつけなくてはと、過去の入院エピソードを思い出していた。
うっかり入院は初めてだと思っていたが、子供を出産するときに入院していたのだ。
当たり前だが。
不思議なことに、病気ではないため、自分の入院経歴にカウントされていなかった。
あのときは二人部屋で、カーテンで仕切られた隣のベッドには、既に出産を終えた先客がいた。
カーテンが閉められていて姿が見えなかったので、カーテンが開いたときに話しかけてみようと思った。
後でコミュニケーションを取ろうと考えつつ、自分もカーテンを閉めて寝入ってしまった。
しばらくして話し声で目が醒めると、隣に数人の友人がお見舞いに来ているところだった。
すごく盛り上がっている。
「旦那と結婚する前に、他の人ともヤッておきたかったんだよ。あれは、ただの思い出作りだよ。ひと夏の思い出。旦那は一切知らないけどねwww」
「あ〜、そうなんだ〜。そういうことだったんだ〜www。あ、隣の人に聞こえてるんじゃない〜?」
「大丈夫だよ。カーテン閉まってるから、寝てるでしょ〜」
あんたらの声がうるさくて、もう起きてるけどね。
そういえば、その思い出作り、自分の友人も、似たようなことを言っていた。
20歳前後で会社の先輩と結婚することを決めた後、「自分はこの人しか男を知らないまま生きていくのか。それは嫌だ」と焦り、慌てて手近な男性同僚と寝たのだと。
独身時代の思い出作りだよ、と。
自身の結婚式のビデオを見ながら、出席者の一人を指し、「この人だよ」って教えてくれた。
要らない情報だったけど。
さて、盛り上がっていた隣の友人が帰ると、ほどなくして、ご主人と義母らしき人がお見舞いに来ていた。
「お義母さん、〇〇を預かって貰い、ありがとうございます。〇〇はあの後、後追いしてませんでしたか?」
「大丈夫よ〜、すぐ遊び始めていたわよ。いつも通り、元気に過ごしていて、問題ないわよ〜」
「でも、4日も私がいなかったら、寂しがるでしょう?」
「あら、全然大丈夫だから、心配しないでね〜」
今回の出産は、二人目のようだ。
彼女は、長男のことを心配しているフリをしているが、義母から肩透かしを食らいまくっている。
ご主人の明るい声も聞こえてくる。
実家で、自分と子ども、妻抜きのメンバーで、メチャクチャ楽しくやっている様子を伝えていた。
ま、そういう事だ。
退院するまで、このカーテンは閉めておくことにしよう。
そう決意した、エピソード。
「音はダダ漏れ、気をつけよう」の教訓。
自分の時間を静かに過ごすことは得意な方だ。
この大学病院を退院するまで、穏やかに行こうと思った。
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