第13話

いよいよ、計画していた旅行の日が来た。


手術前に、皆んなでお母さんのおっぱいとサヨナラしようという、家族露天風呂温泉旅行計画だ。


朝早くに出発して、高速サービスエリアのアイスや、道の駅で食べたそばと松茸ご飯が美味しかっただけで、もうウキウキした。


予約しているペンションへ行く前に、善五郎の滝へ寄った。

熊よけの缶を鳴らしながら坂を下ると、迫力のある滝がどどーんと迎えてくれた。

すごいエネルギーだ。

見ることができて、良かった。


ペンションに着くと、早速、貸切で露天風呂に入った。

温泉はもちろんのこと、家の小さな風呂でさえ、湯船に浸かることが大好きな子どもは、もう大はしゃぎだ。

きゃっきゃしながら、皆んなでおっぱいとサヨナラをした。


これでいい。


夜は、ペンションご自慢の食事をたっぷり楽しんだ。

かわいい前菜、ほっとする煮物、楽しみにしていた和牛ステーキ、自家製かぼちゃプリンなど、温かみのある創作料理をゆっくりといただいた。


また露天風呂へ行き、湯に浸かりながら、のんびりと素敵な星空を観た。

部屋に戻ると、子どもの頭にコツンとカメムシがぶつかり、さらに腕にくっついた。

「こういうところには、いたりするんだよ。気にするな〜」

驚いて嫌がる子どもをなだめる夫の腕にも、別のカメムシがくっついた。

見上げると、部屋の天井にカメムシが何十匹もいた。


「わっ〜!!」

子どもは悲鳴を上げて嫌がったが、夫と自分は爆笑した。

「なんでこんなにいるんだよ、カメムシ〜!アハハハハ〜」

とにかく可笑しくて、笑い転げた。


翌朝、部屋の窓から、朝日が昇るのを眺めていると、夫が「山がキレイに見えるかも!」と、カメラを持って急いで外へ出て行った。

自分も外に行くと、日の出とともに乗鞍岳の山々が、朝日に美しく照らしだされていた。

その景色と朝の冷たい空気は、とても清々しかった。

美味しい温泉卵等々が食べ放題の朝食をいただき、ペンションを後にした。


次の目的は、三本滝へのトレッキングだ。

自分にとっては、ちょっと頑張らないと辿り着けないところだったが、チャレンジすることにした。

そして、努力の先にあったのもは、まさに大中小の3本の水が流れる、立派な滝だった。

なるほど、凄いな。

自分の目で見られて良かった。


折角だからと、番所の滝にも行くことにした。

こちらも、水量がたっぷりあり、岩肌の荒々しい、迫力のある滝だった。


乗鞍三滝制覇だ。


9歳の子どもも、よく頑張った。

偉いぞ。


帰路の途中、蕎麦屋に寄った。

自分たちが入店して程なく、暖簾を外していた。

まだ午後3時前だったが、蕎麦がなくなったので閉店ということのようだった。

お腹が空いていたので、入店できて良かった。

さらに、キリリと冷水で締められた蕎麦がとても美味しかったので、この店にして良かった。

旅の食事はギャンブルだから。


無事に自宅に着いて、思い出をノートに記した。

こんなに、楽しい旅行ってあったっけ?と思えるほどの、嬉しいこといっぱい、楽しいこといっぱいの旅行だった。


良かった、良かった、良かったづくし。


さぁ、次は入院の準備だ。

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