第12話

手術日がやっと決まった。

夫の海外出張と重なりそうだったが、提示された日で了承した。


しこりが見つかってから手術を受けるまでに、3ヶ月以上待つことになったが、やっと、がん細胞を自分の体から取り出してもらえる日が決まったのだ。


どこか、気持ちが軽くなった。


後日、病院から電話があった。

他の患者の手術キャンセルが出たので、予定より2週間ほど早まるが、その日に手術を受けられますか?という内容だった。

出張の話を覚えてくれていた先生直々に連絡をくれたのだ。

とても、ありがたくその申し出を受けさせてもらった。


さて、手術の日まで、やっておきたいことがある。


「死ぬまでにしたいこと」、ということではなく。


まずは、毎月のように会っておしゃべりをしていた大切なママ友にだけは、しばらく会えないと伝えたい。


連絡を取り、いつものファミレスで、自分の今の状況を伝えた。

話を聞いていた彼女は、ハンカチで目頭を押さえて静かに涙を流してくれた。

気休めのような励ましの言葉は無かった。

彼女の、その有り様が、やっぱり自分には心地良かった。

元気になったら、また、会おうと約束した。


家族とは、手術をして体力がなくなる前に、旅行に行こうという話になった。

皆んなでお風呂に入って、お母さんの手術するおっぱいとサヨナラしよう、という企画だった。

乗鞍高原の家族露天風呂があるペンションを見つけ、善五郎、番所など、いくつかの滝を見るためのトレッキングをメインに、アクティブに過ごすことにした。

ペンションは、自家製の野菜を使った料理が自慢のようで、食事も楽しみの一つになった。

計画を話し合っているうちに、ワクワクしてきた。


がん患者だっていうのに。


手術を受けるにあたり、病院からいろいろな承諾のサインを求められられる。

アレルギーに関してや麻酔のとき歯が欠けてしまうかも等、リクスがいくつもあるのだと知った。

万が一、自分が麻酔から目覚めなかったら・・・、ということも考えた。


迷ったが、遠く離れて住んでいる自分の姉だけには、今の状況を連絡しようと決めた。

親には伝えないことにした。

それぞれ一人で暮らしている両親に伝えたところで、心配を掛けるだけだろう。

何よりも、自分にとって既に「頼る相手」ではなかった。


姉に電話連絡すると、思ったよりライトに話を聞いてくれた。

そして、自分の知り合いが40代で乳がんのため亡くなってあの時はびっくりしたわ〜と、あっけらかんとセンシティブな話をしはじめた。

「おいおい、まだ死ぬつもりは無いけどね!」と、ツッコミを返した。


ははは、それでいい。

湿っぽいのは、お断りだ。

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