第11話

母から離れて、20歳から10年間、一人暮らしをした。


29歳の時に、もうすぐ結婚しようと思っている人がいると、母に電話をした。

今、大学院生で、大学生の時は奨学金を貰い、贅沢しないで生活をやりくりしてきた、地に足のついた人だと説明した。

すると、母が思いがけないことを言い始めた。


「あなたも、奨学金もらって、大学に行けたのにねぇ〜」

「え?何のこと?」

「あれっ、先生から聞いてなかったの?高校2年の保護者面談の時、この子は成績がいいから奨学金をもらって大学に行かせてあげてください、もったいないですよって、言われたのよ。でも、お母さん、あんたが高校卒業して就職したら、やっと楽になれると思ったのに、また4年間学生を抱えるのかと思ったら嫌になって、断ったのよ〜、あははは〜〜〜」

「え?初めて聞いたんだけど」

「でも、あんた、いっつも勉強したくない〜って、言ってたでしょ〜」

「いや、そうだけど、でも・・・」


早く、電話を切りたかった。

高校の保護者面談は、教師と保護者の二者面談だったため、その話を、今の今まで、全く知らなかったのだ。


自分には、そんな道もあったのか。

それなら、大学で勉強したかったな。

大の得意科目だった化学と生物、もっと学びたかった。

結局、専門学校も、大学も、行かせてくれなかったんだ。


母との電話を切って、直ぐに、彼氏に電話を掛けた。


母との会話を伝えながら、涙がポロポロこぼれてきた。

彼氏は、直ぐにそっちに行くからと言った。


本当に直ぐに、あっという間に、彼氏は来た。

ドライブしようと、悲しみで潰れた自分を部屋から連れ出してくれ、夜の高速をぐんぐん走り、一緒に夜景を観た。


そして、「結婚したら俺が大学に行かせてあげるから、もう泣くな」と言ってくれた。


嬉しかった。

こんなことを言ってくれる優しい人に巡り会えた幸せが今ここにあって、嬉しかった。

それと同時に、その言葉だけで十分救われたと思った。

こんな自分にかけるお金があったら、どうぞ、それをあなたやあなたのご両親に使ってください、今のお気持ちだけで十分です、と心の中で感謝した。


そして、その学びたい思いは、いつの間にか、自分で封印していた。

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