第7話
検診時にしこりが見つかってから約2ヶ月半が経ち、やっと治療方針と手術日が決まった。
乳房温存療法となり、手術後に放射線とホルモン剤治療。
抗がん剤治療ではないことに安堵しつつも、手術は、この日からさらに1ヶ月後だと告げられ、「また、何も治療を受けられずに待ち続けるのか」という思いに駆られる。
運が悪いことに、手術日は、夫の海外出張の日と重なる日程だった。
手術日を遅らせて、出張と被らないようにできないか、夫が考え始めているようだった。
がんという増殖する爆弾を抱えながら、何もせずに待ち続ける恐怖は患者本人にしか分からない。
できれば、手術の延期はしたくない。
夫婦共に近所に親戚がいない状況で、予定通りの日程なら、自分が入院中に9歳の子どもを見てくれる人が必要になる。
県を二つまたいだ遠方に住む、夫の両親に頼るしかなかった。
今の状況を説明して、子どもの面倒を見てもらわなければならないかもしれないのでお願いしたいと、援助を求めた。
ありがたいことに、快く了解してもらった。
しかし、数日後に、滅多に会うこともない親戚一同から、心配しているという連絡が入りだす。
義父が、親戚一同に「息子の嫁が一大事!」と連絡していたのが原因だった。
「皆んな、心配してあげているんだよ」と。
「してもらいたいことがあったら、なんでも言いなさいよ」と、優しい言葉をかけてくれた。
よくあるように。
しかし、自分は、患者本人の意向を確認せずに、親戚一同に病気を伝えたという義父の行為が、どうしても許せなかった。
親切な人たちの心を慮って、その優しさに「ありがとう」と言えばいいのか?
してもらいたいことがあったらって、何だよ。
あんたは、何ができるんだよ。
お前の能力をまず言えよ。
一番してもらいたいことは、「代わりに死んで欲しい」だ。
あんたに、できるのか?
綺麗事ばかり言って、同情している自分に酔うな。
そんな、トゲトゲした思考で、頭が一杯になった。
どうしても、他者からの同情で、自分の立ち位置を変えられてしまうことに、我慢がならなかったのだ。
どう見られたいか、どう振る舞いたいか、どう生きたいか、どんな美学をもっているかは人によって違うのだと、痛感した。
だからこそ、当たり前に「そんなことはしないだろう」という思い込みを持つべきではなかったのだ。
他言するリスクを予見して、口止めをしておくという作業を忘れた、自分のミスだった。
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