第5話

検診時から3回目のマンモグラフィーを受け、大学病院でも、画像ではがんの影がほとんど映っておらず、疑いを持って見なければ分からないくらいだと説明された。


ということは、検診でいつもと違う医師がしこりを見つけてくれた、あの強い触診がなければ、自分のがんは見過ごされていたということになる。


本当に、感謝しかない。


自分にとっては偶然とも呼べる検診医師との出会いの幸運を喜び、時々、なぜいつもの医師はしこりを見過ごしてきたのかという苛立ちが、繰り返し自分の思考に割り込んできた。


しかし、確実に、がんになった悲しみと不安の方が、大きく気持ちを圧迫していった。


検査ばかりで、これからもまだ続く。

まだ手術日は決まっていない。

その間に、この体に潜む爆弾は、どう変化して自分を侵襲しているのか。


自分の人生は、思ったよりも早く終わりそうだ。

「いつか、やってみたいな。できたらいいな」のいつかは、訪れないのかもしれない。

随分、いろんなことを後回しにしてきたものだ。

なんだって、こんなに遠慮しながら、我慢して生きてきたのだろう?

いや、楽しんでやってきたものもあるじゃないか。

誇れるものも、あるじゃないか。


本当に、そうか?


明日、目覚めなくても後悔しないか?

やらなかったことで後悔するものはないか?


いや、ある。

いくつも、ある。


この現世にある、この体とこの魂の組み合わせは唯一のもので、いづれ確実に消滅するものなのだ。

だが、このままこの体を消滅させることは、この魂にとって申し訳ない。

まだ体が動くうちに、魂の望むものを体験させてあげたい。

そうじゃないと、せっかく生まれてきたのに、可哀想じゃないか。


なぜか、そう思った。


そして、今まで沢山の時間を、ムダにしてきたと思った。


兎にも角にも、今まで、自分の消滅、死について、向き合っって考えたことはなかったのだ。


夜は、全く眠れなくなった。

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