第8話 桃李
「柚木さん~、お熱測りますね~。」と言う看護師さんの声で目が覚めた。気が付いたら、病院のベッドだった。僕は、「はい。」と言った。根拠としては心もとないが、消毒液や無菌室のある病院内だ、ここに淫魔がいることはないと、そう思いたかったのかもしれないが、僕は安心しきってそこにいた。
ベッド脇には、『柚木真一』という僕のフルネームが掲げられており、ベッドに寝ている人間が誰であるかを示していた。「お連れ様は、もう帰られましたが、こんなものを。柚木さんにと。」と看護師さんは言って、手に持った何かを渡してきた。
看護師さんの名は、「寺内美紀」と書いてある名札を提げていた。僕は、彼女が手に持っていたものを受け取った。それは、小包だった。小さな段ボールで、ガムテープによって封がされた、少し重みのある何かは、中でカチャカチャと鳴っている。僕は、お金だと思った。
僕は、「体温、問題ないので、失礼します。」と言って去っていった看護師さんを「ありがとうございます。」と見送った後、箱を開けた。中には100万ほどのお金と幾らかの小銭、そして、メモが入っていた。お金はもちろん数えたわけではなくて、メモにそう大体の総額が書いてあった。
メモにはこうも書いてあった。「名前も聞かんままに、追い出す形になってしまって、悪かった。お前が、えらい目に遭って、申し訳ないと思って、少しばかりの気持ちとして、俺らで溜めた金をやる。申し訳ないことをした。えらいのが紛れ込んでいて、迷惑をかけてすまんかった。この通りや。これで許してくれ。」と汚い字で拙い文章が書いてあった。おそらく、サングラスのオジサンが書いてくれたのだろう。彼なりの償いとして、また僕が戻ってきて同じ目に遭わないでいいように、大切な沢山のお金を僕に送ってくれたのだと思った。僕は、「いやいや、やりすぎだよ。」とつぶやいた。僕には、あまりに多すぎるお金だった。
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