第6話 白磁③
僕は彼に「謝りたいんだ」と言われて、部屋を出た。
「一緒に酒でも飲もう」と言う彼は、特別なときにだけ飲むという酒を、和解のためにどうか俺と飲んでほしいと言った。僕は、謝ろうという気がある彼がたとえ謝らなくとも、全く憎んでも恨んでもいなかっただろうが、(そこまで言うなら)とついていった。
「さあ、入ってくれ。」僕は案内され、部屋に入った。部屋は、僕と彼以外はおらず、無人だった。「あれ、仲間は?」と僕が聴くと、「みんな、居場所を見つけて出て行ったよ。俺だけなんだ。この部屋に残っているのは。」と彼は言った。
僕は、『とくとくとく』と鳴らせながら注がれていくオレンジ色をしたお酒をぼんやり眺めていた。僕の目の前で入れられたそれは、僕の知る限り、「ウイスキー」や「ブランデー」といったところしか予想できなかったが、彼はこう言った。「興味津々な顔しているね。これは、『テキーラ』って言うんだよ。何故か、俺はメキシコ出身のこの酒が好きなんだ。ウイスキーやブランデーの出身と違って、治安が悪いところが多いらしいからかな。」と彼は得意げに言って、「乾杯」と言いあった。
彼はそれをグイっと一息に飲んだが、僕はお酒が人生初めてだった。そのため、彼が潔く飲むのを見ても、ためらっていた。「ほらほら。時間が経つと、空気に触れて不味くなるぞ。早く。」と彼は言った。
僕は、目を瞑り、一気に飲んだ。苦くアルコールが飲んだ矢先から揮発して、鼻から熱い空気が抜けた。「ああああ!」と僕は喉を鳴らしてから言って、「偉いぞ!」と彼が言った。
それから僕は彼と夢について話した。僕は、「映画監督になって、世界中で撮影をするんだ。」という話をした。そして、彼は「俺は、大金持ちが持ってる車を全部俺がゲットしてみせる。」と言って強気に笑ってみせた。僕は、彼の言葉の端々に『憂い』のようなものを感じ取り、彼なりの気丈さを勝手に想像した。(いつも虚勢を張って、頑張っているんだな。)とねぎらってあげたくなった。でも、恥ずかしくて言えなかった。
僕は、酔ってきたのか、眠くなった。彼は、「本当は年配(入って大分経つ人間)と新入りは一緒に寝ちゃダメなんだけどよ。今日はここで寝ろ。お前、ベロンベロンだぜ。俺から言っとくから。」と言って、僕を開いている寝床で休ませた。「おやすみ」と言って彼は部屋を後にした。タバコを吸いに行くという。
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初めての飲酒で、寝つきが悪かったのか、僕は夢を見た。僕は、真っ白な蜘蛛の糸に絡めとられ、繭のようないでたちで部屋の中心に浮かされていた。まるで、金縛りにあったように体は動かず、夢が覚めなかった。
僕の目の前に現れたのは、レース状の繊維でできた服を身にまとった、『彼』だった。
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