第21話 また会おう

 今日がファトムさんと出会って一か月、ここともお別れだ。


 本当にここにはお世話になった。文字は読めたが書くことはできず、ここでたくさん練習した。いまだに覚束ないが、ファトムさんが文字の表を作ってくださったおかげで何とかなると思う。


 この世界についても教えてもらった。この世界ロサスでは、魔族と人間が対立して300年、今ではもう、何が原因で争っているのかわからないらしい。


 古い文献によると、争う前はお互いがお互いを支え合い、共同生活を送っていたそうだ。


 魔族と人間は再び共存することができるだろうと夢見る組織『ピリース』、また、危険な魔族は根絶やしにするべしとピリースと対局に位置する組織『ギヴァデル』がある。


 そして人間で共通なのは女神がいることだ。その女神の名は『あん』すべての始まりが女神であり全ての終わりが女神と言う考えがあるため、この世界での宗教の力は絶対的だと言う。


 そして人間は、人大陸の中に五つの国に分けられている、俺達を召喚した国はアリラド、ヨタリ、クォセフ、ノノモン、そして俺達がいる魔大陸に最も近く、俺達が初めに目指す国、ミムノアである。


 そして魔大陸と言うのが、魔族の住まう大陸でとても魔力の密度が高く、魔力に慣れていない人間であればその場で魔力中毒に陥り、絶命してしまうと言う。


 じゃあなぜ俺らは大丈夫なのかと問うと、「前にも言ったが適応力と順応力が非常に優秀なんだお前たちは、魔族と疑うほどにな」と言われた。


 そこまで聞いた俺達はなぜファトムさんがここにいるのか気になってしまった。そこまで詳しいのならなぜここにいるのか、人間の居る街で生活できたのではないかと。


「そういえば、なんでファトムさんはここにいるんですか?帰ることできたんじゃないんですか?」


「そういえば話しておらんかったな、気になるのなら老人の昔話でも聞いてくれ」


 あれはまだわしが三十路に突入したばかりのころだった。その頃は冒険者として生活をしており、Sランクパーティー「平穏の風」に魔法使いとして所属していた。


 当時はその名を出すと尊敬や憧れ、または畏怖の目を向けられた。最強と謳われていたわし達は当時、たぶん今でも未達成クエストである〈魔大陸調査報告〉のクエストを受注していた。


 当時は驕っていたのだろう、自分たちなら大丈夫だと言う過信があった。


 魔大陸と人大陸は橋などでは勿論繋がっておらず、わしが氷魔法を使い続けて渡って言った。


 魔大陸に着く前に魔力切れをおこしたが、他の魔法使いにより大陸に足を踏み入れた。


 するとわしの体が魔力に包まれ、切れていた魔力が一気に全回復した。ここには魔力が溢れているのかと感心して、ふとパーティーのほうを見ると魔法剣士と魔法使いの二名だけがかろうじて立っており、他のものはみんな魔力中毒で倒れていた。


 しかし少し時間がたてば二人とも倒れていた。なぜわしだけ倒れないのか、後でわかったことだが魔力操作に長けており、それを無意識に行うことができるわしだけが生き残ることができたのだ。


 ここではどう生きるか、サーチを発動して周りにモンスターがいないか確認すると、たくさんの魔物がいることがわかった。


 それを確認したとき、わしも死ぬのかと絶望したぐらいだ。


 魔物に見つかり、走馬灯が流れてくる。更に死を深く感じた。怖くなり目を閉じるが一向に攻撃をくらわない、なぜ?と思い目を開けると、そこには大きい刀を持ち、見たことがない服を着た、老人が魔物の首を刎ねているではないか。


 助かったと思い、その老人に礼を言う。するとついてこいと言われこのダンジョンに入っていった。


 当時のわしじゃまるで歯が立たない魔物達を的確に首を刎ね、一撃で倒していた、そんなササキコジロウの剣技にわしはメロメロじゃった。


 あの蛇を倒した後、コジロウに稽古を付けて貰った。わしは魔法をコジロウに教え、稽古中は師弟の関係だが、友人の立場となった。


 そしてわしが一人でこの蛇を倒せるようになったとき、コジロウが世界を見に行くと言っていた。


 もちろんわしも付いていくと言ったが、コジロウが「お主がここにおらねば、のちに来る者たちをどうするのだ」と言っていた。


 コジロウは未来を予知するスキルを持っていた。それも大分先の今の未来を読んでいたのだ。


 わしはそれを聞いたとき、我儘だと思った。だがそれでもコジロウの言うことを聞いた。


 別れ際に「また会いに来る」と言って去っていたのだ。わしはコジロウが約束を破る男ではないと思っている、あれから40年近くたった今でもわしはコジロウの帰りを待っているのだ。


「コジロウにとってここが家なのだ、帰る場所なのだ。約束した友を見捨てることはできない」


 それを聞いたとき、一つの可能性、いや確実性のある事実を思いついた。それはコジロウさんは死んでいるんだろうなと言うこと。


 たぶんファトムさんもわかっている、だけどもしかしたらと言う希望を持っているのかもしれない。


 俺達は何も言えなった。


 


 ファトムさんからお金や地図、俺用のアイテムボックスなどを持って魔法陣の前に立つ。この魔法陣はミムノアの近くの草原に転移するのだと言う。


 「準備はいいか?」


「「はい」」


「それじゃ魔法陣の上に」


 たった一か月だが、濃密で毎日が厳しい毎日だった。


 この思い出は一生忘れないだろう。


「「また会いに来ます」」


 打ち合わせはしていないがセイヤと言葉が重なる。ファトムさんは目を大きく見開いた後、優しく微笑み、言葉を放った。


「あぁしばしのお別れだ、いつでも待っておる」


 ファトムさんが魔法陣に魔力を込める姿を最後に、太陽が肌を照らす大地へと姿を変えた。

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