第20話 燕と燕

 今日は単純な剣技だけでファトムさんと模擬戦である。一番初めにやったときはぼこぼこにされたのを覚えている、今度はこっちがぼこぼこにする番だ!と意気込みは十分。


「手加減できんのう」


 二カっと笑う、楽しみで楽しみで仕方ない表情だ。しかしその笑顔はすぐに消え、威圧的で鋭い目つきへと変わる。


 それに応えるように、相手を睨み殺す勢いの顔を浮かべる。お互いが距離を取るのを確認するとファトムさんが言った。


「わしがこのコインを投げる、コインが床にぶつかった瞬間が始まりの合図だ」


 そう説明するとファトムさんがコインを指で弾く、高く高く上がったがそれは床目がけて一直線


チャリン


 音を鳴らした。


 その瞬間、俺はファトムさんの目の前に一瞬で移動、鉄と鉄のぶつかる音が部屋中に響く。


 俺の刀はいくらファトムさんを斬りつけようとしても受け流されたり避けられたりする、フェイントを入れてもそれはバレバレの様で本命はすぐにばれた。


 優勢だったのが、だんだんと劣勢に変わっていく。セイヤの目からもそれは明らかだった。


 ファトムさんの怒涛の切り替えし、防戦一方である。このままじゃいけないと思い、一旦ファトムさんから離れた。


「最初だけか?」


 俺を挑発するような口調だ。しかし冷静さを欠いてはいけない、これはファトムさんに教えてもらったことだ。


 深呼吸をして一旦落ち着く、再び刀を構えようとすると、ファトムさんが背後に回る、気配察知がなくたって、このだだ漏れの殺気に気付かない筈がない。


 後ろに回ろうと右足を軸にして回るが、既にファトムさんの姿はない。


 背中に悪寒が走る。また背後か?!このまま遠心力で背後に回ったファトムさんを斬りつけようとするが、弾かれる。


 ファトムさんが思いっきり刀を振り下げる、いつものような鋭い攻撃ではなく軽々避けることができた。


 まさか、と思った途端、ファトムさんが手首をくいっと反転させ燕返しをやってきた、俺はファトムさんの刀が振り上がるタイミングで思いっきり刀を振り下げた、上から下へのほうが勿論力がかかる、そのためファトムさんは燕返しが失敗、それに目を開いた。


 そして俺も燕返し、ファトムさんの体勢は崩れているため簡単に首の寸のところで止めることができた。


「負けだ負けだ、まさか燕返しを燕返すとはな!みたらコジロウもびっくりじゃ」


 負けを認め大笑いする。俺は勝てた余韻に浸っていた。


「よくやったなぁ!トモヤ、途中から押されてたけどそれをひっくり返すとはな」


 セイヤがパチパチと拍手しながら近づいてきた。もちろんセイヤにはドヤ顔を決めて。


「じゃが燕返し燕返しを知ったわしにはもう勝てんぞ?」


 初見じゃ勝てない技とも捉えることができる、今の俺の思考は最高にポジティブだった。


「その時は別の方法で勝ちます」


「生意気言うわい」


 俺の頭を撫でながら言う、次もこの人に勝ちたい。



 実はセイヤは槍をやめて魔法一本で戦うことを決意した。その時、ファトムさんはセイヤの目付きがマジだったことで承諾をした。


 その分一日中魔法を扱うことができ、その精度や威力が桁違いである。


 そしてなんと俺は刀だけでボスを倒すことができるようになっていた。このボスは三日に一回復活するため、ここを使って稽古をしている自分たちには邪魔だった。


 二人で一緒に倒していたが、途中からファトムさんに一人で倒せるようになっとけと言われたためセイヤも一人で倒せるようになっていた。


 あと三日で一か月、もうすぐここともお別れだ。

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