第19話 燕返し
ファトムさんと出会ってから三週間がたった。
稽古は着々と進んでいき、受け流しや縮地、居合切りと言ったザ・侍を感じるほどのスキルとは違う技術を習得してきた。本来であれば何年もかけて習得していく技だが「少し粗いが形はなっている、ここを出ても毎日鍛錬するように」と言われた。
別に時間はないわけではない、しかしファトムさんが「外の世界も見たいだろう」と俺たちの気持ちを汲み取ってくれた。
ファトムさんは俺達を鍛えるのも一か月程度と考えており、残り一週間ちょっとは、最後の技を鍛える時間としている。
「最後は何の稽古をするんですか」
「最後はわしの友人の得意技、【燕返し】だ」
燕返しと聞いて俺はとある人物を思い浮かべる。二刀流として名を馳せた剣豪、宮本武蔵のライバル佐々木小次郎だ。
そもそも燕返しとは振り下ろした刀を反転させ、即座に二回目の攻撃を仕掛ける技だ。
スキルで言うと【連撃】と似ている、もしこの技を習得した場合二回の攻撃を連撃で同じダメージ与えることができるため2×2で四倍である。
滅茶苦茶習得したい技だ。
「ササキコジロウと言ってな、わしはコジロウの剣技の美しさに惚れ込んだもんだ。特に今から教える燕返しは芸術だ。わしじゃあ再現できん」
懐かしいと言わんばかりに佐々木小次郎のことを嬉々として話した。
てか佐々木小次郎異世界来てたんかよ?!てか佐々木小次郎の生きた時代は500年位前だ、なのに友人として実際に出会っているファトムさん、年齢は70代前半だと言う。
もしかしたら転移や転生するのはちょっとだけ時間軸がずれるのか、謎は深まるばかりである。
「しかしわしなりに鍛錬をし続けてきた、この技を今から教える」
ファトムさんは一旦深呼吸をして刀を構える、一切の音がなくなった瞬間、ファトムさんが動き出す。
思いっきり刀を振り下げたと思った途端、手首をくいっと捻り刀を反転させ上に思いっきり振り上げた。
まさに一瞬の出来事にこれだけの動作が含まれている。ぎりぎり目で追える速さだ。
「こんな感じじゃ、しかしコジロウには敵わん」
これよりも速く鋭い斬撃があるのかと震える、だが俺もおのこ、カッコいいという感想と早くやりたいと思う気持ちが強かった。
暫くファトムさんに見てもらい、よくなってきたなと思われたらセイヤのほうへ行ってしまった。
あとは反復だ、完全にモノにするために一切の手を抜かない。
気付くと丸一日たっていた。セイヤとファトムさんは俺を観察していたようで、じろじろと見られていた。
俺が刀を振るのをやめると、ファトムさんが近づいてきた。
「良くモノになっておる、今まで教えた技よりも速く鋭く、そして気合の入っておる。これを維持するのだぞ」
俺を褒めると「じゃが」と言ってさっきまでの柔らかい口調が厳しくなる。
「これまでの稽古では手を抜いた居たのか?全く、全部にこれくらいの集中をしておればわしよりも確実に強くなっていたであろうに」
キツイ鞭が飛んでくる。そんな俺を眺めてぷぷぷと笑っている。あいつあとで燕返しの刑だ。
風呂や飯も終わり、就寝時間となった。しかし今日は魔法の訓練をしていなかったため胡坐の体勢を取ると魔力を体にぶんぶん循環させる。
それが終わった俺はベッドに入り夢の世界へと飛び立った。
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