第18話 暴力には罰を

 それから本格的に稽古が始まった、武器を使った稽古では、刀の俺の場合鞘を出し収めるところから始める。


 Youtubeなどでちょろっとみたがまさかそこから始めるとは思わなかった、俺は武具適正がなくてもかなり刀の才能があったらしく、その日のうちに藁を一切の凹凸なく切る稽古に励んでいた。


 セイヤは刀はあまり上手に扱えず、武器の変更を余儀なくされた。その時渡されたのは槍だそうで、あまり気乗りしていなかったが、突きをファトムさんから褒められてうれしかったらしく、気に入ったようだった。


 しかし何でも扱えるファトムさんは何者なんだ?正体については追々聞いていくことにしよう。


 午後になると昼食を食べ終え、魔法の練習に励む。


 魔法に関してセイヤはピカ一で、ファトムさんは驚いていた。しかし基礎はやはり大事で体中に魔力を巡らせ自分の能力を一時上昇させる【身体強化】と言う基礎中の基礎魔法の訓練をした。


 セイヤは一瞬で終わらせ、もうばこんばこん魔法を放っていた。俺はと言うと二時間はかかった。


 しかしファトムさん曰く、これでもかなり早いほうでお主らは異世界の才能がありすぎると訳わからんことを言っていた。


 一時から五時ほどまで約四時間魔法を使い続けているところファトムさんが夢でも見ているのか?と言う顔で目をこすり始めた。


「お主ら魔力切れは起こさんのか?」


「魔力切れ?なんですそれ」


 俺たちの異常性に一周周って冷静になって様で、説明を始める。


「本来であれば、優秀な魔法使いでも2時間ほどしか連続で魔法は使えなかったぞ、それも指先に小さい炎を出し続けるという魔力出力が最も低い魔法をな」


 ファトムさんの驚いた顔は見慣れたもんだ、しかしこうも褒められると調子に乗りそうだ。


 自分をしっかり自制し、油断を作らないようにする。


 9時から17時の八時間の稽古、まるでホワイト企業の労働時間だ。


 しかし俺達は余り余った元気があり、それを抑えるために体中に魔力をぐるんぐるん回す。


 ずっと身体強化してるみたいで楽しかった。


昼飯はファトムさんが用意してくださったが、晩飯は自分たちで作ることを提案した。


 だがカレーや野菜炒めぐらいしかわからず、ミノタウロスの肉を焼く方法はわからなかった、ただ焼くと言われても失敗する可能性を考えたときミノタウロスの肉はもったいなすぎるため、ファトムさんに教えてもらった。


 ファトムさんに教えてもらいなんとかうまそうに見えるほどまでできた。ファトムさんには「料理はやらないほうがいい」と真剣な顔で言われた時はビビった。料理の才能ないのか。


 楽しみで仕方ないミノタウロスの肉、見た目はまるで国産黒毛和牛を彷彿させる。ナイフで肉を差し込むとあまりの手ごたえのなさに驚きを隠せない。


 あの筋肉とは思えんな。


 肉汁と食欲が溢れる、これは鬼に金棒、豚に真珠、猫に小判だ。意味あってるか?


 この際ちっちゃなことは忘れた、今は目の前にある天国に手を差し伸べるだけ。


 フォークに刺さった肉は、刺した部分を頂点とし、山となって口に運ばれる。


 口に張った瞬間に広がる肉の暴力。味を一つ一つ噛み締めながら喉を鳴らす。


「キモイ」


 セイヤにそう言われた、確かに端から見るとキモイかもしれない、ちょっと落ち込むが目の前の暴力を許すわけにはいかない、消化と言う罰を与えるのだ。


 食べ終えたとき、「トモヤ幸せそうに食うけどなんかキモイ」と言われ、めっちゃ悲しかった。


 今日という日を終え、新たな日常を一歩進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る