第17話 解決と普通

 涙が本を濡らす。感情がジェットコースターのように上がっては落ちていくこの本を読まなきゃよかった。


 そんな感想を抱いた後、忘れようと鏡を持って自分の顔を眺めながら【眠りの魔眼】を発動させる。


 意識を自ら手放した。



「……ろ…きろ、起きろトモヤ」


 セイヤに体を揺さぶられ目を覚ます俺、今何時だ?!慌てて時計を確認したとき、8時を針が指していた。


「悪い夢でも見たか?苦しむような顔していたが」


「あぁ大丈夫だよそれより稽古は?」


「ファトムさんがボス部屋に来いって」


「わかった」


 三時間の間に夢など見ていない。本当に何なのだろうと起き上がるために手を付けると固い感触。


 題名を見ると思い出した。直し忘れていたのだろう。


「おい、早くいくぞ」


 セイヤに急かされたため、慌てて本を直しボス部屋に足を進める。




 ファトムさんに謝った後、「それでは始めよう」と言われた。小さい鞄に明らかに入らないポーションを取り出すと、俺達に渡した。「飲め」と言われたが知らない効果のポーションを飲むわけにはいかない。


「大丈夫死にゃあせんし、痛みもない」


 そう言われ恐る恐るポーションを飲む。別に何ともなく普段通りだ。


「これはわしがこのダンジョンでドロップさせたポーションで、効果はステータスを消すポーションだ」


 それを聞いたとき俺は戦慄した、稽古と言われたがどのように戦うのか、魔法や刀の技術を上げたりするのではなかったのか?


 俺たちの表情を見て満足したように笑う。


「大丈夫、別にステータスの表示をなくすだけだ」


 俺たちをホッとした、なーんだ、まだスキル使えるじゃんよかったー


「じゃが、スキルは別だスキルはステータスが表示されんと使用することはできない、つまり単純な身体能力だけだ」


 とうとう撃沈、その姿をみてファトムさんは大声を出して笑う。この人悪魔だ。


「そしてなんとな?なんとマイナス補正:肥満までついてくるんじゃ!」


 そう言った後、俺達がまた怯えるかと思ってこちらを見るが、俺達は目を合わせた。


「あの、その肥満ってどうさせるんですか」


「あーそれはな、このダンジョンはなんでもドロップしてくれるんだが、マイナス補正を与える杖を入手したのじゃ」


「「えぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇえぇえ!!」」


 俺達の声が響く、マジ驚愕の現在地はここだ。自分で何言ってるかわからないが、本当に驚きだ。


「どうしたどうした、そんなに声を上げて」


 耳を塞ぎながら俺達に尋ねる、俺は興奮で鼻息を立てながら答えた。


「実は俺のユニークスキルで【体重変換】ってものがあるんですけど、自分の体重をステータスに変換し、また、スキルを作成することができるんです!!」


 今度はファトムさんが「なんじゃとぉおぉぉぉぉぉぉぉお」と驚きのあまり開いた口が塞がらない。


「じ、じゃあこの杖さえあれば、お主はなにをせずとも強くなれると?」


「そうです!」


 自信満々に答えた、宝の持ち腐れであった体重変換だが、ようやく日の目を浴びる。


 歓喜で派手に舞いたいところだが拳を握り締め、必死に我慢した。


 ファトムさんが自分を落ち着けるために一旦深呼吸をした。


「なら尚更鍛錬が必要だ、いきなり膨大な力を得ると体に振り回されるだけ……お主ら、この世界に来て何日目だ」


 大事なことを言っていたため俺達はファトムさんの言葉に集中していると急に考え込み、唐突な質問が飛んできた


「わからないですが、召喚されてからここに来るまでたぶん二日三日です。」


 セイヤが答えると一人でなるほどなと言っていた。考えがまとまったのか口を開いた。


「お主らが召喚されてからこの部屋のモンスターを倒せるほどの実力になったほどだ、お主らはきっと適応力と順応力が非常に、スキルになってもおかしくないほどに優れている。お主らはモンスターの血肉を見たとき、少々気持ち悪いと思った程度で、気分が悪くなったり、吐いたりしていないと思われる、あの蛇の殺し方をみればな」


 褒められているのはわかる、しかしサイコパスだと言われているようで純粋に喜べなかった、セイヤは普通に喜んでいた。


「稽古は魔法と武器の扱い方、もちろんこのロサスの地理やお金の使い方について教える、少し楽になったな」


 まて、もし俺達が適応力と順応力が優れていなかったら、どんな稽古になっていたのか想像するだけで恐ろしかった。

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