第8話 side木坂美縁2
「どうしてこんなことをしたんですか?!」
少し泣き声で王様に問う。いくら使えない能力だとしても、こんな仕打ちはあまりに酷すぎる。転移先がジャングルで人が誰もいないところだったらどう生活するのか、もしかしたら死んじゃうかもしれない。
不安ばかりが頭によぎる。そんな私を見た王様はびっくりしていたが、私を落ち着かせるために言う。
「安心しなさい、彼らが戦場へ出向いてもすぐに死んでしまう。だからここよりも安全なところへ転移させただけだ。」
そんな言葉を聞いて少し安心する。超危険なところに!とかじゃなくてよかった。
「それでは勇者様御一行はこちらに」
執事さんが、城内を案内した。寝泊まりするところ、どこで食事をとるのか、訓練するためのところや、知識を蓄えるための図書館と座学を行う教室に、体を洗う場所。どれも豪華でみんな興奮気味だ。
「わからないことがあれば、私にお聞きください」
といって、部屋から出ていった。今は食堂におり、食べ終えたところだ。
隣に座っていた野村千佳ちゃんが話しかけてきた。
「いきなりあれはびっくりしたよね」
「そうだね、本当にびっくりした」
「それにしても、どうしてあんなに慌ててたの?」
しばらく考え込む私、そんな姿を見て千佳ちゃんが
「もしかして刈水君のことが好きだったり?」
惜しいような的外れのような千佳ちゃんの考察。少し違うが、好きな人を言うのは恥ずかしいので、今思いついた言葉を言う。
「違うよ、クラスメイトに身の危険があるんじゃないかと思って、とっさに動いたの」
そういうと、つまんなそうに顔を見せた。
「あの二人ってどこにいったのかな?安全なところとは言ってたけど、ほんとかな?」
それはそうだ。王様に二人が安全だって聞いた瞬間にホッとしていた私は王様に言いくるめられたが、どこにいったのだろう。
食堂を出て、体を洗い、執事さんの居るといっていた場所に来た。扉を三回ほど軽く指の関節で突く。
「どうぞ」
了承を得たため扉を開け、執事さんの部屋に入る。
「おや、勇者様ではございませんか、こんな夜中にどうされましたか?」
優しく微笑み、私に尋ねてくる。食堂から気になっていたことを、執事さんの耳に言葉を入れる。
「夜分遅くにすみません。戦場に駆り出せないと判断されたあの二人は、どこに転移されたんでしょうか」
ふむ、と言い顎に手を乗せた。少しの沈黙の後、執事さんは言う。
「私にはわかりません。すべてシュールズ王が設定されたため、執事である私が知る余地はありません」
そう言われ、不安が募る。どこにいるかわからない、本当に身の危険に陥っているかもしれない。あの不気味な笑みをした王様が脳に浮かぶ。
「お力になれず申し訳ございません」
と、私が深刻そうな顔を出したせいか、執事さんが深々と頭を下げた。
「い、いえ、少し気になっていたことなので、それではおやすみなさい」
「よい夜を」
使用人さんからの部屋を出て、自室に戻る。しばらく五十嵐君のことについて考えるが、今後のためにスキルを確認した。【パートナー】というスキルが気になって、タップして詳細を見てみた。
【パートナー】
相思相愛であった場合、二人共のステータスが上昇する。
好意先:五十嵐智也〈人間〉
そこに五十嵐君の名前があった。もしかしたら生きている証明かもしれない。実際に確認することはできないけど、死んでしまったらこの名前が消えるのかもしれないと思うことにした。
自分の好きな相手がスキルにバレるのは、人にバレたようでちょっぴり恥ずかしい。恥ずかしさと希望を抱く夜を、木坂美縁は過ごしていた。
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