第7話 side木坂美縁1
私には好きだった人がいる、五十嵐智也君だ。幼稚園の頃、一人で遊んでいた私に「一緒に遊ぼ」と声をかけて手を引いてくれたことを覚えている。そこから遊んでいくうちに好意が芽生えた。
彼は覚えていなかった。幼稚園の頃は「みよちゃん!」と呼ばれていた(私はトモ君と呼んでいた)が小学校が別で中学も別、高校になって同じ名前を見つけ、話しかけに行っても「誰ですか?」と返された。
しかも私が五十嵐君を好きだったのは、幼稚園の頃は標準な体型で、顔は可愛かった。だが今の五十嵐君はどうだろう?昔の面影はちょっぴりあるものの、全身に肉を蓄え、少し暑いだけでも肉汁のように汗を吹き出すではないか。
見た目で判断する私は後悔を覚える。が、見れば見るほど可愛く見えてきた。以前ほどの好意はないものの、好きという気持ちは変わらないらしい。
彼はいじめられていた。五十嵐君一人に対して、10人くらいが彼をいじめている。周りのみんなは見て見ぬふりをしたり、一緒に騒ぎ立てたりしていた。私はそんな彼を見て見ぬふりはできない。彼がいじめられている現場を目撃した時は注意している。私が注意したときはすっと引いてくれるから、彼も同じように言えばいいのではないだろうか、とも考えたが、いじめられて精神が衰弱しているのだろう。仕方ない。
そんな日が続いたある日のこと、昼休みになり友達と一緒にご飯を食べようとした時だった。
『おめでとうございます!あなた方は選ばれました!これから神の施し《スキル》を与えます。これらを駆使して魔王をぶっ殺し、住まう民を救ってください!』
綺麗な声で何を言っているんだろう。そう思ったとき、教室とは違う、アニメとかで見る王がいる部屋だ。
そこで魔王を倒してほしいとお願いされたが、地球に帰れるのか。そう気になって声を出した。
「元の世界に帰れるんですよね?」
「あぁ女神様がそう告げたからな」
女神様という若干不安だがとりあえず帰れるのだろうと思った。
そしてステータスを確認するために「ステータスオープン」と唱えた。
木坂美縁 勇者 LV0
筋力=6
防御=4
俊敏=6
器用=12
魔力=7
【スキル】
光魔法 聖剣 剣術 鼓舞 逆境
【ユニークスキル】
パートナー
私がスキルを確認していると、王が自分のステータスをのぞき込んできた。
「おぉ!そなたが勇者様か!」
いきなり私の職業を大声を出して読み上げる。すごい!や、いいなぁ!といった嫉妬や称賛の声が混じり、悪くない気分だ。
他のクラスメイトの職業を確認し終えると、王様は言った。
「二人追放者がでてしまった。これも能力主義、貴殿らを死なせないために戦場から遠ざけるとしよう、おい」
人が変わったように不気味な笑みを浮かべ、五十嵐君と巻き込まれてしまった刈水君を指をさしながら言った。クスクスと馬鹿にするように笑い、罵っているのは、五十嵐君をよくいじめていた人達だった。
何が起きるの?と疑問に思いながら見ていると、六人の男女が五十嵐君と刈水君を囲い、私には理解できない言語でなにかを唱え始めた。
もしかしてこれどこかに飛ばすの?五十嵐君と会えなくなっちゃうの?
「ダメ!私も行く!」
全力で五十嵐君のもとへ走った。あとちょっと、あとちょっとのところで二人は消えた。
私は二人がいなくなったところを呆然と眺めるだけだった。
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