登って登って、咲いて、散る
Tatsu
登って登って、咲いて、散る。
初夏の太陽が地上を焼く、そんな日だった。
弱冷房車を避けて乗った電車から泣く泣く降り、灼熱地獄に踏み入れる。遅刻の言い訳を考えながら学校に向かい、冷房の効いているであろう教室へ急いだ。
文化祭準備委員会の本部が置かれている教室には下級生が数人。安定で先輩の高校2年生がいないことを同輩と笑いながら作業の準備をする。
まだ未完成ながらも徐々に去年と同じように……それでも微妙な変化がある文準本部は夏のはじまりを感じさせた。
自分の学校の文化祭は、私立であることもあってかなり大規模である。文化祭自体は9月下旬に行われるものの、その準備期間は7月から。夏休みを盛大に使って準備をするのだ。
自分は文化祭準備がこの学校で1番好きだと言っても過言では無い。
文準委員としての業務をこなしつつ、先輩後輩と雑談をしたり、カップ焼きそば早食い大会を開催してバカ笑いしたり、引退した高3の先輩が残した駒がいくつか欠けている将棋を指したりしていると、一日はあっという間に過ぎていく。
文化祭準備は人の目には写りずらい。
文化祭自体がたかが1年で作るものだし、当日はたった2日しかない。それでも青春はここにあったと言えるだろうか。
初日を終え、学校を出ようとした時、花火大会に誘われた。
どうやら学校の近くで大規模な花火大会が行われるらしく、皆で行かないかとの事らしい。
折角の夏休みだから、と着いていくことにした。
歩いて会場まで向かうと、予想以上の人通りで驚く。道端のコンビニが道に商品を出して売り出してたり、他の店も多くが花火大会を意識して、焼きそばやお好み焼きなどを売っていた。
会場の河川敷まで行くと、もっと人が増えた。
人で緑が埋まっている姿は、圧倒的で、自分という人のちっぽけさが思い知らされる。
人混みを抜けて先に着いていた人達と合流。シートを持ってくると言った人のシートが予想以上に小さくて笑ったり、屋台に買い出しに行ってた人が到着して、食べ物が届いたりしている間に花火は始まった。
開始の花火が上がり、次々に花火が打ち上がっていく。
大きな花火、小さな花火、赤い花火や緑色の花火。ハートや惑星型の花火なんかもあり、都会の夜空を彩っていた。
花火大会が進んでいく中で、細く、しかし確かにある花火の軌跡が目に入ってきた。
花火はひょろひょろと上がっていき、もう限界かな…って思ったくらいで花を咲かせる。
別にその花火は大きく目立ったものでは無く、軌跡が見えない花火の方が派手で、綺麗に思える。
実際自分も咲いたあとの花自体は他の花と比べ綺麗には思えなかった。
他の派手な花火の圧により他の人にはあまりこの軌跡は見えないかもしれない。写真にも、きっときっと写らないだろう。
ただ、一生懸命ひょろひょろと登って登って、小さな目立たない花を咲かせて、静かに散っていくその花は、1番美しかったように思う。
登って登って、咲いて、散る Tatsu @Tatsu-ks
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます