降水確率30%

スマホを置き、人との関わりを断ち、空に煙を吐き出す。


そこに対人関係の煩わしさや、学生の義務は存在しない。社会から乖離した、一時の夢の様な自分のみの空間だ。


朝一番に深く煙を吸い、そして吐く。

昔は空虚なルーティンだと思っていたが、一度始めてしまうとやめられないものである。


今となっては空虚とも言えず、かたや充実とも言えないルーティンに浸っていると、ギシギシと隣の部屋の窓が開く音がした。


「おはようございます」と仕切り板越しに彼女の声が聞こえる。

「おはよう」とぶっきらぼうに返し、手元のタバコを見る。


半分しか吸っていないタバコが目に入る


申し訳なさと半分のタバコを天秤にかけ、決まり切っていた結果を口元に運びなおす。


「すみませんが、ご飯屋さんとかありませんか?昨日ここに来てから何も食べれてなくてお腹がすいてて、、、」

板の向こうから弱々しい声が届く。

「残念ながら、外食は付き合い以外でしない主義なもんで全く知らん」

「そうでしたか、、、すみません。」と言い残し、ギシギシと窓の開く音が聞こえたその時、


「グゥーー」と割と大きめの腹の音が聞こえた。

さすがに清水さんを不憫に思い、「良ければおにぎりくらいならありますが」と、声をかけた。


「、、、お願いします。」と、震える声で帰ってきた返事にこたえるために、

「少し待ってて」と、声をかけ、ギシギシと鳴る窓を開け、唯一あった昼用のおにぎりを手に取りベランダに戻り、「これ食べな」と声をかけて仕切り板の上からおにぎりを持った手を伸ばす。


「あ、ありがとうございます」と声が聞こえ、柔らかい手がおにぎりを受け取る。

「気にするな」と答え、灰皿の淵に置いておいたタバコを見ると葉は燃え尽き、フィルターが焦げていた。


今日の昼が無くなったことをはるかに上回る喪失感に襲われ、肩を落としながら

「それじゃ」とお隣さんに声をかけ部屋へ帰る。


少し覇気の戻った感謝の言葉と、喪失感を背に大学へ向かう準備を始めるために少し重い窓を閉めた。

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