第25話 告げられる真実。
「王よ、落ち着いてお聞きください。先王と、そしてあなたを殺そうとしたのは………王妃様……あなたの、お母さまです……!」
「ママうえ様が……? ……ははは、悪い冗談だな宰相。そんな筈ないだろう」
王は、本当にただ冗談を言われたとばかりに笑顔で軽く流そうとするが……宰相か目を伏せてそれ以上何も言葉を発しないのを見て、徐々に顔が青ざめていく。
「嘘であろう……!?嘘だと言ってくれ!!」
語気を強め追及するが、それでも宰相は決して自らの発言を否定しない。
王は視線を侍従長に向ける。
真実を話すべきだ、と言っていた侍従長ならこの嘘を暴いてくれるだろうという期待が表情に現れていたのだが……侍従長もまた、黙して語らなかった。
相反する主張をしていたはずの二人が、どちらも否定しない……それはつまり――――その言葉が、真実だと……そう思うのが自然だろう。
「そんな馬鹿な……なぜだ!?なぜ母様が!?」
息をするたびに肺が沈み込むような重苦しい空気が場を支配し、誰もが言葉を発することを躊躇う中、侍従長が空気を切り裂く。
「ぼっちゃん!!……いえ、失礼しました王様。少し落ち着いてください。真実をお話します。……ただし、これから話すことはあなたにとってとてもつらいことやもしれませぬが……最後まで聞いていただけますか?」
「……え、つらいならちょっとヤだな」
おぅい!!そこは受け入れろよ王!!
「い い か ら き け。話が進まねぇだろ!」
イラっとしたのか、セっちゃんが王の頭を掴んで持ち上げる。身体強化中のパワー!
「ひいい!首!首がもげる!!頭も潰れる!!わかったわかった!!きく、聞くから!!あああもうママうえー!助けてー!!おぎゃあ!」
「セっちゃん落ち着いて、どうどう。さすがに王殺しは重罪過ぎるから!」
「ちっ」
凄い綺麗な舌打ち!!
まあイラつく気持ちもわからんでは無いけど、殺したらそれこそ話が進まない。
「えと……話を続けてよろしいですかな?」
目の前で仕えるべき君主が頭を持たれて吊るされるという初体験に戸惑いつつも話を進めようとしてくれる侍従長さん。さすが侍従長にまで上り詰めた人の有能さです。
「こんな時ですが、坊ちゃまが王として生きてゆかれることを望むなら、全てを乗り越えていただく必要がございます。よろしいですか?」
「よろしくない。 ぐぎゃあ!よろしいよろしい!よろしいです!」
王はセっちゃんのアイアンクローに屈したようです。
「では……お話しします…」
目の前で王が頭をギリギリされてるのに深刻な空気を保ったまま話始めるの凄いぞ侍従長。
「簡単に申しますと……王とお母上は血の繋がりがございません。あなたは、王が戯れに手を出した下女の子です」
「………凄い衝撃的事実!!!」
衝撃的過ぎてリアクションがツッコミみたくなる王です。
「あなたの存在は隠されていたのですが、そんな折に王が病気にかかられ、二度と子供を作れない状態になってしまわれたのです。つまり、直接王の血を継いでいるのはこの下女の子だけ……そこで、その子を王妃様の子として育てる……王はそう決断したのです」
そりゃあ……随分と王妃様にとっては酷な話だな。
浮気された下女……まあつまり召使いの子を育てねばならないわけで……。
プライドが高ければ高いほどに病むだろうな。
ただ、子供のことを想えば……次の王は下女の子だと蔑まれながら生きていかなければいけない可能性を考えると、秘するのも気持ちとしてはわからんではない。
王としては不誠実だと思うが、親として子を想う気持ちではあったと。
……いやまあ、そもそも妻以外に手を出すのが悪いんだけどな!!と言いたくなるが、王なら愛人くらい居ても不思議は無いか。日本にだって大奥があったのだし。
その辺りの揉め事はそりゃあ今でもドラマが作られるほどだものなぁ。異世界だって結局色恋の揉め事は変わらないのか。人間ってのは罪深いねぇ。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!ママうえ様はたいそう余を可愛がってくれたぞ!?実の息子ではないのにアレ程に可愛がってくれるものなのか!?」
「……逆ですよ王」
宰相も会話に参加してくる。
「王妃様は、全力であなたを可愛がることで、あなたを愛そうとしていた。愛をもって接すれば、この憎しみや悔しさがいつか本物の愛に代わると信じていた……だが、変わらなかったんです……その心の歪みは、時が経てば経つほどに、王妃様の心を蝕んでいったのです……」
その結果、息子は重度のマザコンを発症するほどに母を愛したのか……皮肉な話だ。
「そして最終的には……先王の毎晩の晩酌に少しずつ毒を入れ殺害し、あなたのことも手に掛けようと……」
「う、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!そんなわけない!!あのママうえ様がそんな……そんなこと……」
現実を否定するように宰相の言葉を遮る王だったが、突然、ふと動きを止める。
そして、青ざめていた顔が見る間に色を失っていくのが見える。
気付いたのだ。先ほどの言葉の意味に。
「……待て、待て待て。貴公は先ほどなんと言った? ……先王を殺した犯人は捕まえて処分したと、そう言わなかったか!? それは、それはつまり……ママうえ様を……?」
そうだ、確かにそう言っていた。その言葉の意味することは……
「―――はい、国王の殺害に、王子の殺人も企てていた……これは最大級の国家反逆罪ですから……斬首、致しました」
最初は伏せていた目を、最後ははっきりとあげて真っ直ぐ王を見つめながら告げた宰相。
やったことに間違いはなかった、という強い意志を感じる。
「そう……なのか、ママうえ様が……そうか……」
その場にへたり込み放心する王。
あれだけ愛していた母が、実は父を殺し自分も殺そうとしていたのだと知ったからと言って、すぐに愛情が失われ気持ちが切り替えられるハズもないだろう。
そこへ、宰相が膝をつき深く頭を下げる。
「申し訳ありません……この事をどうあなた様にお伝えすべきかと……。最初は本当に命を狙われていたから身を隠して頂いたのですが……全てが終わった後も、あの部屋から出せばあなた様はきっと王妃様をお探しになるでしょう……その時に、まだ幼いあなたに真実をお伝えするのはあまりにも酷かと思い……心の成長を待つと共に、隔離によって母への愛が少し収まればショックも和らぐのではと……いたずらに時間を重ねてしまいました……」
侍従長もそれに続く。
「わたくしも、申し訳ありません。この話を知った時に、同じようにこの事は知らせない方が良いのかも……と考え、賛成してしまいました。しかし考えを変え、王にしっかりと伝えてこの現実を乗り越えて頂く方が王の未来の為なのでは……と進言したのですが……力が足りず……」
自分もこの地下牢に入れられてしまった、と。
やれやれ……これは思ってたよりだいぶややこしい展開になってしまったな……シンプルクーデターの方がまだやりようがあったが……。
これは確かに、国民に公開しない理由もよくわかるというものだ。
王妃による国王の殺害なんて、国外に漏れれば国の恥だと言われてしまう可能性すらある。
体面を重んじる人間であればあるほど言い出せないだろう。
ここでふと、王様に初めて出会った日に「これはクーデターですね」とか決め顔で説明していた自分を思い出して、恥ずかしさに死にそうになる……!!
ああああああ!!凄い的外れだったーーー!!あの時の私、凄い的外れだったー!!今すぐベッドに飛び込んで転げまわりたいくらい恥ずかしいけど我慢して椅子に座ったままスンってしてる!!
耐えろ!耐えろ!……よし耐えた!!
気持ちを切り替えて、この場をどうするか考えよう!!今!今すぐに!!
……今一番大事なのは、この幼き王様の次の言葉だ……それによって、この国の今後の道筋は大きく変化する。
突然愛する母を失った幼き王が、その絶望から立ち上がり未来への歩みを進める……そういう展開になれば、その物語はきっと国民の理解と後押しを得られるはずだ!
さあ、王よ!!ここで未来への希望が感じられる魂の言葉を吐き出してくれ!!
「……なんかもう全部どうでもよくなった―、死にたーい」
王ぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!!!
絶対だめなやつぅぅぅぅぅううううぅ!!!
「だから言ったではないか!!ワシはこうなるであろうと予測したからこそ黙っておこうと言ったのだ……!」
宰相が頭を抱えると、侍従長がなだめる。
「まあまあ、王も突然こんな事実を知らされて困惑しておるのだ。時間が解決することもあろうて。それを待とうではないか」
そこで侍従長は突然、私の方に視線を向ける。
「貴公らも真実を知りたかったのならこれで満足であろう?もう王を開放してくださらんか。……ちなみに、言うまでもないですが……ここで知った情報は他言無用に願いたいですな。いつか公表する日も来るやも知れませぬが、それはしっかりと時期を見てから――――」
……ああ……それが、そうはいかないんですよね……。
「いや、あのー……すいません。ちょっとその、非常に言いづらいのですけど……」
「なにかな?」
「ここでの会話、全部外に集まってる国民の皆様に聞こえちゃってるんですよね……」
そう、ここでの会話をみなに知らしめること……それこそが作戦だったのだ。
「な、なんだと!?どうやってそんなことが!?」
「いやその……そこと、そこに、無線マイクっていう音を拾って飛ばせる道具が置いてあって、それを外に設置してあるスピーカーっていう音を出す道具に繋げると、あら不思議。ここでの会話が、全部外に聞こえちゃうのでした!まあ、音を遠くまで飛ばす魔法とか、そういうものだと思っておいてください」
最初にしばらく無駄話をしたのも、マイクとスピーカーのセッティングが上手く行ってるか、牢の隙間からナックルが外に出て確認したり調整したりする作業があったからなのだ。
なので、確信の話を始めたのは、ナックルからOKが出てからだった、というわけだ。
辛かったよ!どうでもいい雑談で時間稼ぐの!
「な、なぜそんなことをした!?そもそも可能なのかそんなことが!?」
「可能なんですよねぇ……ただ、自分としてはこの場であなたがクーデターを行った事実を上手く暴いて国民に知らしめれば、宰相殿を失脚させてめでたしめでたしだと思っていたのですが……そこは計算外でした」
「計算外で済む話か!!国家の秘密を外部へ流出させたのだぞ!?どう責任取るんだ!」
「……ごめんねっ♪」
可愛く言ってみた。
「許されるはずが無いだろう!気持ち悪いな!」
……可愛くないことは自覚していたが、気持ち悪いとまで言われると少し傷つくな……。
まあ仕方ない、おっさんが可愛くしようと思ったら気持ち悪いと言われるのは世の常なのだ。おっさんとは虐げられる生き物……!
気持ちを入れ替えるために一つ咳払いをして、強引に話を続ける。
「まあまあ落ち着いてください。私をどう処分しようと、もう伝わってしまった事実は変わらない、そうでしょう?ならば、やるべきことは一つです」
「……なんだと?この状況をどうにか出来るとでもいうのか?」
「ええ、もちろん出来ますよ。ただ、やるのは私ではない」
私は椅子から立ち上がり――――へたり込んでいる王の肩に手を置いた。
「王よ、あなたがやるのです。この場を収めることが出来るのは、あなたしかいない。この国の王である、あなたしかね」
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