第19話 王様とご対面
「王はこちらにおわします」
屈強な兵士二人に挟まれながら案内されたのは、城の中……ではなく、その横の塔の中だった。
一応城とも通路は繋がっているようだが、そこは重い扉で閉ざされていて場内の様子を伺うことすら許されない。
部屋という部屋もそれほど存在せず、螺旋階段をしばらく上ると何もないただの床だけの踊り場のような空間があり、少し離れた位置にまた階段。
その床を一つの階とするなら、2階、3階、4階……5階まで来て、初めて変化があった。
階段の先に扉が付いていて、そして……どうやら、ここに王様が居るようだ。
いやいや、王様がこんなところに……?
普通に考えたら、王様に会うとなったら玉座のある謁見の間みたいな場所をイメージするものだが……ここ?
何らかの事情でお忍びで会うことになるにしてもなんだか妙な雰囲気というか……よほど人に聞かれたくない話でも無い限り、こんなところに呼び出したりはしないだろう。
「今鍵を開けますので、少しお待ちを」
―――――鍵?
人を呼び出して部屋の中で待ってるだけなのだとたら、鍵をかけてるのは妙な話だ。
扉に目をやると……鍵の前にまず、扉を横切るように塞いでいる木材の閂(かんぬき)を開けるところから始まった。
それをどけてから鍵を一つ、二つ、三つ開けて……ようやく扉が開けられる状態になる。
……なんだこれは?
これじゃあまるで、王様がこの部屋の中に幽閉されているみたいじゃないか。
不審に思いカートスさんに視線を送ると、「今は何もいうな」と目で訴えてくる。
……まあ、何か事情があるであろうことは察せられるが……事前に教えといてくれてもいいんじゃない?
その辺は後でちゃんと追及させてもらうとして、部屋の中に入ろうとしたところで、「武器は預かります」と声をかけられた。
まあそりゃあ、王様にあうのに武器の携帯は許されないよな。と言っても、武器を持ってるのはセっちゃんのトライデントだけなので、それを渡すだけで終わる話だ。
「断る」
「セっちゃん!?断らないで!?」
ものすごく仏頂面だ。不機嫌フェイスだよセっちゃん。
「ならばお通しできません」
当然のように立ち塞がる兵士に、思いっきり斜め下からガンを飛ばすセっちゃん。
やめて?素敵ヒロインの上目遣いは可愛いヤツだけにして?
「ちょっとちょっとセっちゃん、何してんの武器渡して」
「でもよ……」
何がそんなに気に入らないのか不満を隠そうとしないセっちゃん……はっ、これもしかしてアレじゃない!?初めて主に貰った大切なプレゼントであるトライデントを手放したくないとか、そういう超かわいいヤツなんじゃない!?
そうかそうかー、そうかー!
「うんうん、セっちゃん気持ちはわかるけど、今回はお願いしてもいいかな?ね?主の顔を立てると思って、ね?ね?」
「……なんでそんなに満面の笑顔でお願いしてくるんだ気持ち悪いな……わかったよ、気持ち悪いな。ほんと気持ち悪い。気持ち悪いからわかったよ」
………凄い気持ち悪いって言われたけど、ツンデレのツンが強いだけだと思う事にしよう。そうしよう。
「くそっ……王様ってやつがどれだけ強いか腕試ししたかったのにな……」
……あっ、そういう理由? 大事な主から貰ったやつだからみたいな可愛い理由じゃなくて!?
そっか……そっかぁ……。
「なんなんだよ主……さっきまであんなにニコニコだったのに急に凹むなよ、こえぇよ……気持ち悪いって言って悪かったよ……だって本当に気持ち悪かったからさ……でも悪かったよ」
微妙に追い打ちっぽい謝罪をくらったけれど、私は元気です。
ええい、もう気にしない!気にしないぞ!気分を切り替えて王様に謁見だ!!
息を整えて部屋の中に入る。
……部屋の中は塔の形にあわせた円形の形をしていて、石畳の上にカーペット、机、椅子、タンスと小物入れに部屋の中で一番目立つ大きな本棚……それと、部屋に似つかわしくない天蓋付きのベッドが置いてある。
王様の部屋としてはあまりにも簡素ではあるが……
「待っておったぞ、よくぞ来てくれたな」
声の方へと振り向くと、ベッドの天蓋の向こうから出て来たのは―――
「お初にお目にかかる。余がこのムネーマ国の王・ショルタン・コルテンス・ムネーマ23世である」
………どう見ても、10歳くらいの少年だった。
王様……? 王子様じゃなくて……?
呆気に取られて周りを確認すると、カートスさんもセっちゃんも、ナルルでさえも膝をついて敬意を示している。
……どうやら、全員この子が王様だと認識している様子だ。
私も慌てて正座を……違う違う、片膝をつくのか?
昔行った海外でもあったにはあったが、やはり日本暮らしが長いと慣れないなこの形式は。
「よい、楽にせい。余も今となってはこのような身、頭を垂れたとて何も出ないぞ」
そう自虐的に笑う王様に対してカートスさんが声を上げる。
「そのような事をお言いにならないでください。わたくしにとって、仕えるべき王はあなたしかおりません」
「―――……忠心に感謝する」
そう言いつつも、王様の瞳はどこか悲しげ……いや、寂しげだった。
……瞳に、希望が無いのだ。
まだ幼いのにもかかわらず、全てを諦めてしまっているような、そんな瞳。
いったい何がどうなっているのか説明を聞きたいところだが……セっちゃんやナルルまで跪くってことは、この子が王様であることはきっと誰もが知る周知の事実なわけで……それを本人の前で質問するのはさすがに勇気がいるし何より失礼だよな……。
あー、事前にナックルにこの国の王様について聞いといたらよかったー。
……このまま、とりあえずわかったふりをして話を続けるのも一つの手ではあるが……
「して、カートスよ。この者が?」
王様の視線が私に向く。
……カートスさんからなにかしらの話を聞いて、私に興味を持って呼んでくれたのだとは思うけど……どんな説明を?
「ええ、例の…………不思議な人です」
だいぶ言葉選びましたね?
「うむ……名は何と言ったか……泥、だったかな」
「いや、あの……ゴッド、とお呼びください」
「意味は変わらんが……何かこだわりがあるのだろう。理解した。ではゴッドよ」
その場しのぎでつけた名前を王様に呼ばれるというのも何とも言えない気持ちではあるけど、今更別の名前名乗るのも変な話だものな。
「ではゴッド、そなたに案を授けて欲しいのだ」
「……案、と申されますと?」
「なんだ、説明してはおらんのか?カートス」
「ええ、王自らの口で伝えて頂いた方が良いかと思いまして」
「……それもそうか」
なんだなんだ、怖いなぁ。
「ではゴッドよ……余は愁いているのだ……この国のありように」
部屋に一つだけある窓に目を向け、外へと思いを馳せる王様。
窓は はめ殺しになっていて開くことは無い。
室内を見回すとかなり高い位置に少しだけ開く窓があり、そこから空気の入れ替えは出来るようだが……これは形を変えた牢獄ではなかろうか。
「国民は貧困にあえいでおるのに、それを解決する手段が無い。……正確には、それを持ち合わせていたはずの人間はもう居なくなってしまった」
王様はこちらに背を向けていたが、その背中からでも悲しみが伝わってくる。
「そこで、カートスから話を聞いてな。その……不思議な人間が居ると」
また言葉を選ばれた!
もうハッキリ言って欲しい。
そんな私の思いとは関係なく、王様は大きく息を吸い込んで、おそらくそれが本題であろう話題を繰り出した。
「どうだろうゴッドよ。余と共にこの国を貧困から救い出す案を考えてはくれぬか?」
……それは、自分が目指しているものは全く同じだから望むべくもないというか……今すぐに受けたいところではあるが……正直気になることが多すぎる。
このまま流されて返事をしたら相当大変なことに巻き込まれるのは必至!
ならば……やるべきことは一つ―――これしかない!!
「その前に王様、聞きたいことがあるのですが」
「なんだ、言ってみよ」
「王様は、ここに閉じ込められてるんです?」
必殺、バカなフリして聞いてみた作戦!!
投げたぜ、ド直球ストレート!
背後から、セっちゃんとナルルがビクっと反応したのが伝わってきたが、カートスさんは微動だにしない。
このくらいは想定内ってことなんだろうか。読めないお人だ。
まあでも実際、わからないことは聞くしかないのだ。
たとえそれが失礼に当たるとしても、今聞かなければ絶対に後々後悔する。
情報が無い状態で決断するのは、一番やってはいけないことだからね。
さて、王様のお返事は……
「そうだ」
実に端的なお答えだ。
怒っているのかと一瞬思ったが、表情を見る限りそうでもない様子。
「それはまた、どうしてですか?」
「……どういえばいいのか……簡単に言えば……クーデター……のようなものではないかと思わなくもないのだが……うーむ」
先ほどと違って、今度ははっきりしない。
「のようなもの、というのは……?」
「うむ……確信が持てないというか……例えばその、余を殺して王の座を奪うとなれば、これは確実にクーデーターであろう?」
「そうですね。確実に」
「しかし今回はそうではないのだ。名目としては私は、守られるためにここに入れられている。その結果として王の仕事が出来ず、大臣たちが政治を取り仕切っておるのだが……そもそも余はまだ未熟で、周りの手を借りねば職責を全う出来ぬとも感じておるし、完全に仕事を奪われたわけでもなく、意見を全く取り入れて貰えない訳でも無い……なので、これがクーデターかと言われると……ハッキリせぬのだ」
……?
わかるようなわからないような話だな……まあ、まだ子供だししっかり理論立てて話せというのも無理な話ではあるが。
「その、守るため、というのはどういうことなのですか?」
疑問を一つずつ片付けていこう。
「ああそうか、そうであるな……その、二年ほど前に父が崩御されたのだ」
「………もしや暗殺、とかですか?」
それなら、守るというのも納得できる。
「いや……病死だったハズなのだ。何年も前から父は病に苦しんでいたし、崩御の数か月前からほぼ寝たきりであった。崩御されたという話が出たときも、ついにその時が来たか……と、とうに覚悟は決まっておったほどだ」
「……? ならば、何から守るのですか?」
「それがよくわからんのだ……病死だと思っておったし、公式にもそう発表されたのだが……戴冠式の直後に実は暗殺だったと言われてな。その暗殺者は余のことも狙っておるから、しばらくここに隠れていてくれと……それからずっと、ここから出る事を許されぬのだ」
――――なるほど、ようやく見えて来たな。
「一応確認しますが……前王が病気で伏せっておられた時、政治はどうされていたのですか?」
「そうだな……その時は、大臣たちが中心となって進めていたはずだ。余も勉強の為に何度か予算会議には出席したが、まだわからぬことが多くてな」
「ははぁ……見えてきましたよ全容が」
「どういうことだ?」
「そうですね……推測交じりではありますが、説明させていただきます」
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