第18話 さぁ城だ!
「では、少しの間ここでお待ちください」
そう言ってカートスさんは馬車を降りていき、私とセっちゃん、ナルルとナックルだけが馬車の中に残された。
かなりゆったりと座るスペースのあるカートスさん所有の馬車に乗り、おそらく二時間弱程で到着したのは、この国の王都……ではなく、なんといえばいいのか……道の駅のような場所だった。
異世界に道の駅というのもおかしな話ではあるが、そうだとしか言いようがない。
長い草原のような場所に延々と続く長い道。
前にも後ろにも自然の風景だけが広がるその中に、突然ポツンとコンビニくらいの平屋の建物がいくつか並び、その奥にはちょっとしたアパートのような二階建て建物がある。
周囲には馬車の馬を繋いでおくようなスペースもあり、駐車場といろいろな店が並ぶこの空間……やはり道の駅だろう。
「なぁナックル。ここはなんなんだ?」
「ここは……オレっちも来るのは初めてだけど、たぶん転移スポットだぜ」
「転移スポット?」
「ああ、この世界には、決まった場所同士を繋げる魔法の移動手段があるんだ。各国の王都は4つとも繋がってるし、それ以外にも国中のいくつかのポイントまで瞬間移動できるんだぜ」
なるほど……ゲームで言うところのワープポイントみたいなものか?
どこからでも自由に移動できるのではなくて、あくまでも決まった場所から決まった場所へ。
「それはどのくらいの数あるものなんだ?」
「んーーー、平均すると各国に3つか4つずつくらいじゃないかな。維持するのも大変だし、転移の魔法は本当に選ばれた人間しか使えないから、一個作ってもらうにも莫大な金がかかるんだ。幸いこの国も、まだそこまで貧困が進んでない時期に3つ目までは作れたって話だぜ」
無理しても作る価値があるってことか。
まあそうだよな、これはいうなればインフラ整備だ。
有ると無いとでまったく利便性が違うだろう。
人を送り出すにしろ迎い入れるにしろ、あまりにも便利だからな。
「まあ、戦争の国は今全部封鎖されてるらしいけどな。暗殺とかもしやすくなるし」
ふむ……道の駅というよりも、この世界における空港みたいなものなのかな。
町中に置くというよりは、少し離れた場所に作る事でいきなり攻め込まれたりもしないだろうし、警備もしやすい。
そして人が行き来するからには、店を構えればそれなりに売れる。
奥の大きな建物はおそらく宿で、周囲は飲食店とかお土産屋とか、そういうものだろう、きっと。
「ってことは、ここは何か重要な場所の近くなのか?」
「いや、ここは単純に、この辺りにあるいくつかの街の中間地点だぜ。ここからどの町にも馬車ならそれほど長い時間かからず行けるからな」
……そうか、ただ単に距離の問題でここにあるのか……そうなると、なにかこの辺りの名物のようなものを作って売り出せば、日本の道の駅のようにそれ自体が観光地化することも出来るかもしれないな……などと思考を巡らせているところへ、
「お待たせしました。準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
カートスさんが戻って来たので思考は中断され、言われるがまま後を付いていく。
辿り着いたのは、転移スポットの端にある、真四角で金属で作られたような建物。
公園にある公衆トイレくらいのサイズ感だ。……あまり良くない例えだな?
その四角い箱のような建物には一つだけ入り口があり、兵士が4人見張りとして立っている。
カートスさんが何か見せると、それをじっくりと確認されて中へ入るOKが出る。
何かチケットのようなものを見せたのだろう。
中に入ると、地下へと延びる階段があり、それを降りていくとまた入り口の前に兵士が今度は3人。
そこでも同じような手続きをして中に入ると――――青い壁の薄暗い部屋の中で、光を放つ魔法陣が描かれた部屋に辿り着いた。
その部屋の四隅にも兵士……厳重だな警備が。
まあ、ナックルの話では相当貴重なモノらしいし、悪用でもされようものなら簡単に国を混乱に陥れることも出来そうな設備だものな。
このくらいの警備は当然だろう。
「では行きましょうか」
カートスさんに言われるがままその魔方陣の中に入ると、兵士の一人が移動して、奥にあった扉の中へと入る。
チラリと見えた部屋の中には、杖を持ってローブを羽織った、いかにも魔法使いと言う風体の……ああ、男か女かは確認できなかった。
おそらく、あの人がこの魔方陣をコントロールしているのだろう。
つまり、自分の意思で勝手に良き先の変更などは出来ずに、チケットか何かに書かれた行先に転移させられるのだろう。
どこまでも悪用されるトラブルに対しては慎重になっている様子だ。
これだけ便利なものだからな、おそらくここに至るまでに様々なことがあったのだろう。
その結果できたのがこの厳重なルールと言うわけだ。
……最悪のケースを想定した結果、不便になるというのはどの世界でも共通の課題だな……誰も悪用しない前提で運営できたらどれだけ楽だろうか。
まあ、人間が存在する限りそんな世界は絶対にありえないのだけど。
そんなことを考えていると、魔法陣の光が強まり、その光に包まれて一瞬視界が真っ白になったかと思うと――――次の瞬間にはもう、壁の色が変わっていた。
部屋の構造自体は全く同じだが、先ほどまで青い壁だったのが、緑の壁に変わっている。
……転移したのか?
スポットごとに色を設定することで、転移先がすぐわかるようになっているのだろうか。全てのスポットが安全上の理由から地下にあるとしたら、外に出てみるまで場所が分からないというのも不便だろうから、合理的ではある。
場所を示す看板でも置いておけばいいのにと思わないでもないが、すぐさま識字率の問題に思い至る。
それほど文明が発達してる世界だという印象もないし、識字率はそれほど高くないのではないだろうか。となれば、色で示すのは一番わかりやすいのかもしれない。
なんてことに思いを馳せながら、入る時と似たような手続きを踏んで、やはり階段を上って外へ出る。
扉が開いて風を浴びると、今までとは違う匂いがする。
なんというか、自然や緑の匂いがしない。
山の中で暮らしていると毎日自然に触れているので、それが感じられないだけで環境の違いが判る。
外へ出ると眩しい太陽光に一瞬目がくらみ真っ白になったが、目が慣れた途端に視界に入り込んできたのは――――恐ろしく高い壁だった。
いや、違う……壁ではない、門だ。
10メートルはあろうかという大きな鉄格子のような門が存在感を主張している。
来た時と同じように、周囲には売店などが並んでいるが、その並びの向こうにどうあがいても目に入る巨大な門。
「ここが、ムネーマの王都でございます。ゴッド様」
カートスさんが指し示した先には、門と、それを支える大きな城壁が左右に伸びた王都。
周囲は堀に囲まれていて、その上に跳ね橋がかかっている。
なるほど王都と言うだけあってなかなか立派なものだ。
「さあ、行きましょう」
――――しかし、カートスさんに案内されて街に近づくと、すぐに違和感に気付く。
「……あれ、堀に水が無いな」
「気づかれましたか。昔はあったのですが……この辺りには水源があるにはあるのですが、この不景気の折に使いもしない堀に水を流すくらいなら国民に安く配ろう、という王様の配慮なのです」
……へぇ、見栄よりも実利を取るのか。
貧困の国の王と言うからどんな人間かと思っていたが、わりとまともそうで一安心だ。
……逆に言うと、真面目な人間が真面目にやっているのに貧困なのだとしたら……この国の貧困問題は相当根が深いな……。
門に近づくと、門は基本的に少し開いているのがわかる。
上に開くタイプの門なのだが、基本的に2mくらい開いた状態になっている。
まあ、一人通るたびに開け閉めしてたら大変だろうから基本は開けておくのだろうけど、少し車高(?)の高い馬車が通る時には少しだけ開けてまた戻すという作業が行われていてなかなか面倒そうだ。
おそらく、あまり高く上げ過ぎると不審者が入り込もうとした時にとっさに下げても間に合わないが、低すぎたり毎回上げ下げだと面倒だからなんとなくちょうどいい高さを保とうとしているのだろう。
ご苦労様です、と心の中で挨拶しながらひたすらカートスさんの後ろをついていく。
門をくぐり街の中に入ると――――活気が無い……訳ではない。
貧困の街とは言え王都なので人はかなり多いし、門から真っ直ぐに伸びた大通りは左右に店が並び、商店街のようだ。
ただ、それこそ日本の商店街のようにところどころに空き店舗があり、営業中の店も棚に空きがあったり……あまり景気が良いという印象は受けない。
「王都でもこんな感じなのですか?」
「……ええ、貴族や王族相手の商売はまだ成立してますけど、庶民向けの店はどこも厳しいですね。わたくしも、他の国での商売は大幅に黒字ですが、この国は赤と黒を行ったり来たりです。だからこそ、人に任せられずに自らやりくりしてるんですけどね」
ため息交じりにそう答えるカートスさんの背中に疲れが見える。
大変そうだ。
「……この国での仕事を切り上げようとは思わないのですか?」
他で黒が出ているなら、この国で商売を続けるメリットはあまりないようにも思えるのだけど。
「まあ……考えなくもないですけど……」
カートスさんはもう一度溜息を吐き出し、ゆっくりと後ろを振り向くと苦笑いしながら呟いた。
「――――わたくしにとっては故郷ですから……どうにかしたい、って気持ちを捨てられないんですよね……商売人としては、失格ですね」
はうあっ……!
がめつい商売人タイプだと思ってたのに、そんな地元想いな一面あるのちょっとキュンとしてしまう……!
おじさんそういうのに弱いのよ!だっておじさんだから!人情話に弱い!
好きになってしまう……!
いや、ならないけど!さすがにそんな、ねぇ、ならないけど!
「……主……?」
「どうしたのかなセっちゃん。間違っても絶対に謝らない人を見る時くらいの軽蔑の目だよ」
「あるじ……」
「ナルル?憐れんでるかい?あるじを憐れんでいるかい?そういう目だよ?」
そんなにもチョロさが顔に現れていたのだろうか………大事な奴隷二人から酷い目を向けられてしまった。
……奴隷と主人ってこういう関係性だったっけ?
まあ、このくらいの方が好ましいけどさ。
そんなこんなで、気付けば大きな城の前までたどり着いた。
入ってきた正面の門から真っ直ぐに伸びた道を突き進むとそこに見えるのが、この国の王城だ。
いくら貧困の国とは言えさすがに王城は立派だし綺麗に飾り付けられている。
ゴツゴツした岩壁が特徴的な大きな洋風の三階建ての城で、左右に高い塔のようなものが立っている。
いかにも城!って感じの城だ。
「では行きましょう、ゴッド様」
カートスさんは慣れたように城の中へと入っていく。
……王様か……どんな人だろう……というかそもそも、私に何の用なのか……。
怖いなぁ……。
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