第13話 買い物しようと町まで出かけたが。

 昨日と同じ近くのチバイの町へ。

 まだモンスター襲撃の跡は見えるが、町は普通に稼働しているようだ。

 生きる力を感じるな。

 街へ入ると、周囲から注目を浴びる。

 昨日の事でどうやら私たちはちょっとした有名人らしく、町の大通りを歩くとあちこちから「昨日はありがとう」といった声が聞こえる。

 ……まあ、その声が向けられてるのは私ではなく主にセっちゃんなのだが。

 けど、それはそれで良い。

 私が矢面に立つよりも、彼女に「顔」になってもらった方が動きやすいというモノだろう。幸い、服で奴隷の首輪は隠れているしな。

 英雄が奴隷というのもなんだか複雑な気持ちになりそうな気がするし。

 これからも服のデザインは首輪を隠す形にしよう。……本当は外してしまうのが一番良いと思うのだけど……用心には用心を重ねて、もう少ししっかり信頼関係が築かれるまではこのままにしておく方が得策だろう。

 仲間たちを探す約束もあるし、逃げ出したり襲ってきたりすることは無いだろうけど……さすがにまだ昨日の今日だからね。

 などと考えつつも、町の中心である市場に到着する。

 モンスター襲撃による被害は端の方の区域だけだったようで、屋台のような店が道の左右に何件も並んでいる。

 ……一見すると盛況っぽくて、貧困に苦しんでいる町には見えないのだけれど――――よく見ると、やはりそんなことは無いらしい。

 店の品揃えはそれほど多くは無く、商品が並べられた場所はいくつも隙間が空いている。

 食料品も、見るからに品質が良くない。ツヤの無い肉、しなびた野菜……それすらも少量しか買って行けない町の人たち。

 それでも、この市場しか食材を手に入れる方法が無いから人は集まっているが……なんというか、昔の映像で見た戦後の闇市とかああいうのを思い出す。

 貧困の国……か、やはり人々の暮らしを見ればそれがよくわかるな。

 しかしこうなると困ったな……多めに食料を買いこもうかと思ったが、私たちが買ってしまうと町の人たちの分なんてすぐになくなってしまいそうだし……申し訳ないけど、そもそも美味しくなさそうというのもある。

「なあナックル。この近くに他に町はあるか?」

「え?あるにはあるけど……他の町はここよりもっと品ぞろえ悪いぜ。言ったろ?この辺りではここが一番大きな町だって」

 そうか……しばらくは食料品は神様ポイントで賄おうかな……それとも、適度に街にお金を落とした方が良いのか……?

 とはいえ、私たちの食料品程度のお金を落としたところで貧困が解消されるわけじゃないしなぁ……。

 などと思考をぐるぐると回転させていると、

「泥さまー!泥さまー!」

 という声が聞こえた。

 ずいぶん珍しい名前の人が居るんだな。呼ばれてますよ泥様。

 ……しかし辺りを見回すも、誰も反応していない。

「泥さまー!」

 もう一度聞こえたので声のした方を見ると……少し離れた位置から、奴隷商のカートスさんがこちらに向かって笑顔で駆け寄ってきていた。

 ……ん?

 私を見ているな……?

「こんにちは泥様。昨日はお買い上げありがとうございました。今日はどうなされましたか?」

 ……真っ直ぐ私の目を見て話かけている……泥……様?

 ――――あっ!!そうだ、思い出した。ゴッドを名乗ったらそれは泥の意味だとナックルが言ってたっけ……だから私を泥様と呼ぶのか……。

「いや、あの、カートスさん。私のことはどうか、泥ではなくゴッドとお呼びください」

 この世界においては同音異義みたいなものだが、自分的に受ける感覚が違うのでそこはお願いしたい。

「……?どう違うのかよくわかりませんが……了解です、ゴッド…様?」

「はいそうです!」

 非常に首をかしげておられるが、そこは押し切ることにしよう。

「……失礼ですがゴッド様、この国の言葉を話せるのですか?でしたら、昨日も直接仰っていただければよろしかったですのに」

「ああ、いや………すいません、実は、昨日の今日で言葉を覚えたんですよ、と言ったら信じますか?」

「……御冗談を。ゴッド様の言葉は昨日今日で覚えたような不自然さは欠片もありません。使い慣れた言葉としか思えませんわ」

 そういうものなのか、凄いな神様ポイントの力は。

 というか、隠しきれない苦笑いを浮かべているなカートスさん。いかんいかん。突然変な冗談を言う寒い奴だと思われたくない。

「……ははは、すいません。実は少し喉を壊してましてね。昨日も話せないことは無かったのですが、まだ万全ではなかったので妖精のナックルに会話を任せていたのですよ」

 少し無理があるような気もするが、現状出せる案としては一番マシなものだろう。

「まあ、そうだったのですね。今日はもう お加減はよろしいので?」

 一応受け入れてくれたようだ。

 完全に信じたわけではなさそうだけれど、それなりに納得できる理由だったので、カートスさんとしてもわざわざお客さんにツッコミを入れるほどではないのだろう。

「ええ、もう平気です。お気遣いありがとうございます。ところで、今日は何か御用ですか?さすがに昨日の今日でまた奴隷は買いませんよ?」

 わざわざ走って来て声をかけたからには何かしらの用事があるのだろうけど……私には大量に奴隷を買い漁る趣味はないですよ?

「ああいえ、本日はそういう事ではなく、見たところ何か迷っておられるようでしたので、お助け出来ることがあるやも……と思い声をかけさせていただきました」

「お助け……ですか?」

「ええ、実はわたくし共は単なる奴隷商ではございません。ありとあらゆる商売に手を広げる、言うなれば総合商社でして……奴隷商はそのうちの一つでしかありません」

 そうなのか。あっ、カートスさんのメガネがきらりと光ったぞ。

 さては私に金の匂いを嗅ぎつけて、商売のチャンスを逃すまいとしてるな……?

 ……けど、これはこちらとしても助かるな……この世界の商売のことに関してはまだまだ分からないことが多い。

 手広くやってるならそれだけ学ぶことも多いだろう。

「……では、一つお聞きしたいのですが……この辺りはあまり良質な食料品は豊富に出回っていないのですか?」

 店の人たちには聞こえないように、小声で問いかける。

「ええ、そうですわね……ここで話すのもなんですので……」

 同じく小声で辺りの様子を伺いながら返答してくれるカートスさん。……まあそうだよな、このあたりの店は品ぞろえが悪い、なんて話は下手すればここの店主たちを敵に回すことになりそうだし、商売人としてそれは望むことではないだろう。

「よろしければ、またお店の方に来ていただけますか?その方がゆっくりお話しできると思いますので」

 ぐいっと体を寄せて、胸を押し付けて来るカートスさん。

 色仕掛けか……?

 迂闊にも一瞬ドキっとしてしまったし、凄い良い匂いがしたし、柔らかかったな!とか思ったけど、そんなものには簡単に屈しないぞ!!

「……そうですね、じゃあ、行きましょうか」

 それはそれとして店には行くけど!!

 それは単純にゆっくり話を聞きたいだけだから!!別に他意は無いから!!下心とかじゃないから!!

 ふと後ろを振り向くと、セっちゃんとナルルとナックルが冷ややかな目でこちらを見ていた。

「いや違う!本当に違うから!!そういうんじゃないから!?」


 必死で弁解しても、しばらく彼女たちの視線は冷たいままだったとかなんとか……。


 ……本当に違うのに!!本当に!!!


 ………………………本当だよ…?



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