第12話 メイドさんの爆誕。

「メ……メイドさんだ……!」

 目の前に降臨されたのは、夢にまで見たメイドさん……しかも、極上に美しくセクシーな銀髪エルフのメイドさんだった。

 光を反射し煌めきを放つさらりと長い銀髪の髪、大きく空いた胸元から見えるデコルテラインの美しさ、色素の薄い肌が際立つ長い手足、足元は少しフリルの付いた短めの靴下に、少し厚底だけど歩きやすさを重視した黒のローファー。

 あまりにも……あまりにも理想的……!

 神々しささえ感じる!!!

「ほら、着たぞ!これでいいんだろ!!」

「あ…………」

「あ?」

「ありがとうございます……!」

 僕は膝から崩れ落ち、気づけばそのまま丁寧に奇麗な土下座をしていた。

「やめろよ!踏むぞ!?」

「それはそれで!」

「やっぱり変態じゃねぇか!!」

「変態じゃないよ!!変態だとしてもそれは変態と言う名の紳士だよ!」

「意味の分からないこと言うな!!」

 お馴染みのネタが通じない事の寂しさはあるなこの異世界というやつは。

 まあそれは仕方ない。慣れていこう。

 しかし本当に美しい。

 こんな美しいメイドさんを雇うことが出来るなら、一度死んだ意味もあったというものだ。

 よし、ひとしきり美しさを堪能したので、ここからは仕事の時間だ。

「じゃあまず、二人には掃除を―――」

 と、そこまで口に出したところで、気づいてしまった。

 何やら悲しそうな顔をしているナルルに。

「どうしたんだいナルル?」

 出来る限り優しく声をかけた私に対してナルルは―――……

「ずるい……」

 と小さい声で囁くようにつぶやいた。

「おねえちゃんばっかりかわいい おようふく で ずるいです あるじさま!!」

 涙目で訴えかけるその姿に、ずきゅんと胸を打たれる。

「お姉ちゃん!?可愛い!?」

 呼ばれ方と、これが可愛いのか?の二つで困惑するセっちゃんをよそに、私は反省した。

 そうだよな……二人に差を付けてはいけないよな……。

 片方にだけ服をプレゼントしたらもう片方の自尊心を傷つけてしまう。

 特に子供の頃は、自分が大事にされていないと思ってしまうのは成長過程の心の動きとしてとても良くない。

「そうだね、ごめんねナルル。実は―――ちゃんと用意してあるよ!!」

 一瞬後ろを向いてポイントで作ったのだが、最初から用意していたように見せる。

 そうでなければ結局不公平だものな。

「やったー!きていい!?きていいのあるじさま!?」

「いいぞー、さっそく着替えておいで」

「わーーい!!」

 元気に風呂場まで駆けていく後姿を見て、とても微笑ましい気持ちになる。

 ……私も、あのくらいの子供が居てもおかしくない年齢だったんだよなぁ……どうしてこうなったのか……。

「おいちょっと主よ」

「なんだいセっちゃん?険しい顔をして。セっちゃんももう一着欲しいのかい?」

「欲しいわけあるか!!そうじゃなくて、あの子にもこんな格好させるのか?子供だぞ!?」

 セっちゃんは自分のメイド服を触りながら訴えかけてくる。

 子供にセクシーな恰好をさせることに抵抗があるようだ。

「まあまあ、そういうのは着替えた姿を見てから言ってくれよ」

「……そんなこと言って、出て来たらめちゃめちゃエロい服だったりしたら心底軽蔑するからな」

 ……そのパターンは考えてなかったな……。

 確かにこの流れで紐ビキニみたいなの着て出てきたらフリと落ちがよく効いているとは思うけれど。

 そうこうしていると、勢いよく風呂場の扉が開く音と、足音が聞こえて来たかと思うと、ドアの陰からぴょこっと顔だけ出すナルル。

 ほんと可愛いなこの子。

「服着るの難しくなかったかい?」

「うーんと、ちょっとむずかしかったけど、ようせいさんがてつだってくれました!」

 そう言えばナックルの姿が見えなかったな。手伝いに行ってたのか。さすが気が利くな秘書妖精。

「じゃあ、姿を見せておくれ」

「うん、ちょっとはずかしいけど……えいっ!」

 ぴょこんと飛び出したナルルが来ていたのは、昔ながらの英国メイド風の衣装だった。

 黒い長そでのロングワンピースに、白いエプロンを付けたシックな装いでありつつ、気品と可愛さも感じさせる伝統メイド服。

 これもまた良いものだ。

 ナルルの後ろに、一仕事終えた職人の顔をしたナックルが居たので、グッ!と親指を立てて仕事を称えた。

 しかし、首を傾げられてしまった。どうやらこのハンドサインはこの世界では通じないらしい。

 ……そう言えば外交官時代に、同じ手の形でも国によっては大きく意味が変わって侮辱的な意味になる事があるから気を付けろと先輩からキツく言われてたっけ。

 ナックルの反応を見るに侮辱的な意味ではなさそうだが、下手をするとこの世界の人間とトラブルになる可能性もある。気を付けないとな。

「おい、おい主よ」

 先程のナルルと入れ替わるように今度はセっちゃんが不満げに声をかけて来た。

「なにさセっちゃん。セっちゃんにはその最高のメイド服用意したじゃないか」

「だいぶ違うだろ!!アタシのもああいう感じのやつにしろよ!!」

「やだよ」

「なぜだ!?」

「だって、ナルルにそれはさすがに着せられないだろう?」

「……その良識はあって嬉しいぞ主」

「となればセっちゃんしかないじゃないか」

「だからなぜだ!?どっちもあの上品な衣服で良いだろう!?」

「ダメだよ!その露出度の高い衣装を、気品高き姫騎士であるセっちゃんが羞恥に満ちた顔で着こなすからこそ光るんじゃあないか!!」

 その言葉を聞いて、首をかしげて考え込むセっちゃん。

「………それは、褒められてるのか……?」

「全力で褒めてるよ!!」

 それはもう全力で。

 私の言葉を受けて、再び考え込むセっちゃん。

 少しの間考え込んで―――――

「じゃあ、いいのか……?」

 と呟いた。しかも少し照れている!!

 まさか……まさかセっちゃん……チョロインなのかい!?

 くっころ姫騎士銀髪エルフチョロインメイド……要素が、要素が多すぎるよセっちゃん!!

 まあメイドは私が付けたんだけども!

 ともかく、衣裳には納得してくれたようで何よりだ。

 ……納得したくれた、ということにしよう。そうしよう。

「じゃあ、さっそく仕事を始めてくれるかい?今日はひとまず掃除をしよう。使い方のわからないモノがあったら教えるから、遠慮なく聞いてくださいね。よろしくお願いします!」

 私が頭を下げると、二人もそれに倣う。

 ……頭を下げる意味はこっちの世界でも同じなのか、あとでナックルに確認しとこう、っと。


 そこから昼過ぎまで、ひたすら掃除が続いた。

 とは言え作り立ての家だからそこまで汚れてはいないのだが、今後家事をやってもらううえでやり方を覚えてもらうのが第一の目的だから綺麗になるかどうかは問題じゃない。

 だが、物覚えが思った以上に早いのは嬉しい誤算だった。

 最初こそ困惑していたが、1時間もすればだいたいの機器を使いこなしていた。

 ……ナルルだけが。

 セっちゃんはなんていうか……やってることはほぼドジっ子だった。

 掃除機を使えば自分のスカートを吸ってしまい、洗濯機を使えば中をじっと見過ぎて目を回し、コロコロを使わせたら木の床にべったり貼り付けてしまい、料理をすれば……剣技によって材料を切るのだけは上手い。……といった具合だ。

 どれだけ属性を身にまとえば気が済むんだセっちゃん……!!

 失敗するたびに「無念」とか言ってる場合じゃないよ!!

 仕方ないので、失敗しようのないクイックルワイパー担当になった。さすがに、持って床を滑らせるだけという単純作業は失敗するはずがなかった。

 ……一度ゴミ箱を倒したりはしたけど……まあすぐ元に戻したので良しとしよう。

 確かに買う時に奴隷商のカートスさんは言ってた。この子は家事には向いてないかもしれないと。言ってたけども!想像以上だったよカートスさん!!

 そういう意味ではありがとう!ナルルを一緒に売ってくれてありがとう!!

 基本的に家のことはナルルに任せることになりそうだな……セっちゃんはバトルメイドとして活躍の機会を待つとするか。


 家が綺麗になる頃にはもう昼も近くなっていた。

「いやー素晴らしいねナルル!家事のことは君に任せて大丈夫だな!ありがとう、ウチに来てくれて!」

「えへ、えへへへ、ほめられた!!ありがとうあるじさま!」

 満面の笑顔で嬉しそうに飛び跳ねるナルル後ろで壁に額を打ち付けて凹むセっちゃん。

 自分がこんなにも家事が出来ないとは思わなかったのだろう。

「まあ気にしないでよセっちゃん。少しずつ覚えて行けばいいし、もし戦う時があったらその時は頼るからさ」

「ああ……すまない主よ……アタシは、今になって反省してるよ……姫だった頃に下働きのみんながこんなにも大変な仕事をしてくれているとは思わなかった……。やれば、やればすぐにできると思ってた!!慢心!!アタシは酷い慢心をしてたよ!!ううっ……!」

 泣かなくても良いじゃないの……まあ、人間というものは自分が実際にやってみないと大変さが理解できないモノなんだよな。

 私も一人暮らしを始めてから初めて家族の大変さが理解できたものだ。

 そんなセっちゃんにナルルがトコトコと近づいていき……

「おねーちゃん!いっしょにがんばろうね!」

 と声をかけて手をぎゅっと握った。なんていい子だ……!

「あ、ああ……そうだな、ありがとう……」

 しかしセっちゃんは戸惑っている。

 あまり小さい子に接した経験が無いのだろうか。

 いかんぞそんなことでは、姫としても英雄としてもだ。

 まあその辺は後々にどうにかなる……と信じよう。あんまりアレだったらしっかり心得を伝えなきゃならんなとは思うけど。


 それはともかく昼飯だ。

 また何か出しても良いけど……二人の料理の腕も確認したいし、この世界でどんな材料や料理が手に入るのか確認もしたい。

 なにより、言葉を話せるようになったら街の様子もより確認できるだろう。

「……よし、じゃあ買い物に出かけるか!二人とも準備してー」

「……ちょっと待て、出かけるって街にか?」

 またセっちゃんは何か異論があるようだ。

「そうだけど、どうしたの?」

「どうしたの?じゃないだろ!!まさかこの格好で行かせる気じゃないだろうな!?どんなプレイだよ!」

「………羞恥プレイ?」

「ちょっと待ってろ、今トライデント持ってくるから」

「持ってきたとて私は殺せないぞ、首輪の契約があるからな」

「ぬぐぐぐぐぐぐ!!!」

 目と歯茎から血が出そうなくらい悔しそうな顔をしている。

 からかうと楽しいなセっちゃんは。

 まあでも実際、将来的な英雄への道を考えるとこのセクシーメイド服姿をあまり見せつけるのは控えた方が良いかもしれないな……いや逆にセクシーメイド英雄というのも新しいとは思うけど……。

 いやいや、やっぱりダメダメ!

 セっちゃんが街中の男たちからエロい目で見られるの想像したらなんかイラっとした。独占欲だろうか。金で買ったくせに。

 そもそも、戦いになった時に防御力が皆無過ぎるよなメイド服は。

 仕方ない、姫騎士にふさわしい華憐な鎧でも出すか。

 でも鎧って可憐さを出すとどうしても防御力が犠牲になるよな……とはいえ全身を分厚い鎧で囲んでいては華々しさに欠けるしなぁ。

 英雄には目を引く外見や、象徴的な姿も大事だろう。


 ということで、上半身には防御力をあげるために鎖帷子を着て、その上からゆったりした白いワンピースを合わせる。スカートは大きくスリットが入っているので動きやすさ重視だ。

 そこにエメラルドグリーンの鋼の胸当て、ベルトと一体化した同じ色の鋼の前掛けを付けることで、動きやすさと華やかさを併せ持たせる事に成功した。全部で4ポイント。


「それなら良いでしょ?」

「うむ、満足だ!!」

 本当に満足そうだ。

 ……一応、ナルルにもちゃんと確認しよう。

「ナルルは外出用の服、欲しいかい?」

「ううん!ナルルはこのふくすきです!かわいい!あとあるじさまに はじめてもらったふくだから!」

 ……ええ子や……!!

 この子ほんま ええ子やで!

 思わずエセ関西弁が出るほどに!


 よし、じゃあ買い物と市場の視察に行くか!!

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