第9話 ごはんとおふろ。
「はい、ご飯の時間だよー!!」
結局、最後に残った1ポイントで食事を出すことにした。
とは言え、1ポイントでは基本一人前しか出せないようだったので、ちょっとした裏技と言うか……ピザを1枚出すだけならそれは1人前と見なされるようなので、Lサイズピザを出すことで解決した。
和食でも、「定食」とか「丼」とかは一人前と見なされたが、それを全員で分けるのは難しいので、ピザならみんなでシェア出来るな、と。
しかも出前で注文したみたいな紙の箱に入って焼き立ての状態で出て来た。
どういう原理なのかさっぱりわからないけど、そんなこと言ったらそもそもこの家を出せたのだって意味わからないし、神様の力凄いな!ってことで納得しよう。
ピザカッタ―まで出せたらよかったんだけど、もうポイントが残っていなかった。
包丁はあったからそれで8当分に切り分けた。モデルハウスの棚の中に包丁があったのを見てたから、家を作るときに一緒にイメージできてたんだな。
そういう細かい色々なモノも一緒に生み出していたからこそ85ポイントも使ったのだと考えれば納得できるというものだ。
ピザをリビングの机に置いて……「いただきます」とつぶやいてさっそく一口。
「んーーー!!美味い!!」
考えてみれば今日初の食事だ。
まあ今の自分は100年生きられる健康体らしいから一日くらい食べなくても死にはしないのだろうけど、腹は普通に減るし食の喜びというのは何物にも代えがたいな!!
二枚目に手を伸ばそうとすると、私以外の誰も手を付けていない。
「どうした?食べても良いんだよ」
そう通訳するナックル含め、怪訝な顔をしている。
「なんだよナックルまで、どうした?」
「いやだって……これなに?見たことないから怖いんだぜ……」
なるほど、この世界にはピザは無いのか。
ピザ自体はかなり歴史のある食べ物だから、時代的にはこのくらいの文明レベルなら誕生していても不思議はないけれど、そもそも食文化が違うのかもしれない。
仮にピザに似たものがこの世界にあったとしても、こんなにふんだんにチーズがかかっててトロリとしたピザはまだ存在しないだろうしな。
「まあいいから、ちょっと食べてみなよ。ちょっとだけ切ってやるからさ」
包丁を持ってきて、ナックルの小さな体に合わせてピザの先端をちょっと切って手渡す。
「熱っち!あっちぃぜ!本当に食べられるのか?」
「大丈夫だって、ほら。んー!美味い!!」
子供や動物を相手にするように、まず自分が食べる事で安心安全を訴える。
冷静に考えると、これ神様ではなくお母さんとかお父さんのやる事では?とか思ったりもするが気にしないことにしよう。
それでも警戒心を隠さない様子のナックルだが、空腹には勝てないのか意を決してピザの欠片を口に入れると……
「う、うううううう………うっっっまーーーーい!!こいつは最高に美味いぜ!!」
と上機嫌でそこらじゅうを飛び回り始めた。
暴れる虫を思い出すのでやめて欲しいけど、まあ美味しいなら良かった。
そして、奴隷の二人にも何やら語り掛ける。
たぶん、おいしいから食べてみなよ!的なことを言ってくれてるのだろう。
二人とも警戒心剥き出しで私の方を見て来るので、笑顔で「どうぞ」と勧める。
そこから先は――――まあ、言わずもがなってやつだ。
初めて食べるおいしさに感動して、慌てて食べては熱い熱いと慌てたり、チーズやソースを服にこぼしたりしながらも、みんな大満足の食卓だった。
うん、良いね。
こういうご飯はとても良い。
食べてる時はみんな笑顔が一番だ!
さて、食べ終わってみんな満腹……とは行かないが、美味しかったし腹は膨れた。
まあ、ピザ一枚で4人……1人は子供でもう一人は妖精だけど、それでもちょっと物足りなくはある。
うーーん……そう考えると……1ポイントで1人前の食事しか出せないのでは、貧困の国を救うために食べ物を出してあげる、というわけにもいかないな。
100ポイント全部使ったところで100人のお腹を一度満たしておしまいとなればあまりにも効率が悪い。
材料だったらもっと出せるかもしれないし、お金はいくらでもあるからそれで外から買ってきて配るということも出来なくはないが……それは根本的な解決には繋がらないよな。
国全体を豊かにする方法を考えないと……。
なんてことを考えていたら、一瞬寝落ちしそうになった。
うーん……今日は疲れた、まだ時間的には……どのくらいだろ、感覚として夜8時くらいかな?と思うけど、まあ初日はこんなもんにして寝てしまおう。
となれば風呂だな、うん。
よく見れば、奴隷二人の服は割と汚れている。
あの奴隷商の店はだいぶ綺麗に着飾った奴隷も多かったけど、姫騎士の方は暴れるからと拘束されていたから簡素なワンピースだけだし、亜人の子もあまり人気が無いからなのか似たような簡素な服だ。
少し汚れも目立つし……なんなら今のピザで汚れたし……二人に先に風呂入ってもらうか。
……あっ、でも着替えが無いな……けど、洗濯機はあったかも?
ちょっと確認してこよう。
脱衣所に行くと、最新式の洗濯乾燥機があった。
……でも、洗濯して乾燥までするとやっぱり1時間くらいはかかるか……けど、乾燥だけなら30分コースあるな……ってことは……脱いだ服を軽く水道で手洗いだけして、それを乾燥させれば今日寝るだけくらいは乗り切れるだろう、うん。
そのまま風呂に湯を張る。20分ってとこかなー。
しかし良い風呂だ。しっかり足を延ばせるバスタブと、2、3人は入れそうな洗い場。モデルハウスは家族で子供と暮らすことを想定しているので、一緒に入る余裕がある風呂だ。
淡いクリーム色の撥水性の高そうな壁と、滑り止めがしっかりしてる床のタイル。
そして大きな鏡の前には棚があり、ちゃんとボディーシャンプーと普通のシャンプーとリンス、そして体を洗う用のタオルがあった。風呂と言えばの定番イメージは強いらしく、しっかり創造されている。えらいぞ自分。
さて……このままここで風呂が溜まるのを待ってるのも時間がもったいないな。
幸い風呂に湯を溜める水道とシャワーは別口なので、シャワーを浴びながら風呂が溜まるのを待つのがベストか。
二人に先に入ってもらおうかと思ったが……そもそも二人はこの風呂の入り方わかるだろうか……?
となると……
「おーいナックル!!」
「はいはーい……なんだいご主人?」
呼びつけるとすぐに来た。ちょっと満腹で眠そうだが、さすが秘書妖精だ。
「一緒に風呂入ろう」
「はぁ!?な、なんで一緒に!?……まさか、ボクっちみたいな小さい生き物を愛でる性癖が……!?」
謂れのない嫌疑をかけられているぞ?
「違う違う。この風呂は完全に私の住んでいた日本の風呂だから、こっちの世界の人は入り方がわからないかもと思ってな。だから、私と一緒に入ったナックルが、あとで二人に教えてやってくれ」
下手に使われて風呂を壊されても困るしな。
「なるほど……そりゃあいいけど、ご主人が一緒に入って教えるんじゃだめなのか?」
「それは……いろいろと、アレだろう。そもそも3人で入るのはさすがに狭いし」
生殖機能が無くても体つきは女性だからな……一緒に入って冷静さを保てなくなっても困る。
私の言葉を聞いて、ナックルは少し考え込んでいる。
……そんなに難しいこと言ったかな?
するとナックルが、ふと顔をあげて突然質問してきた。
「なあ、ご主人。ご主人ってもしかして童貞なの?」
――――――――――――………
「……ははははは、そんなわけないだろう。私は転生前はそこそこいい歳の大人だったのだぞ?」
沈黙が肯定だと捉えられても困るので慌てて否定する。
……いやまあ、うん、まあ、うん。うん。
ね、それはね、まあね。
「……そっか、わかったぜ!」
なにがわかったんだい?……とは怖くて聞けなかった。
その後、私とナックルは風呂に入りながらしっかりと風呂の使い方を教えた。
いちいち驚いていたが、覚えが早いのか出るころにはもうシャワーも水道もシャンプーもしっかり使いこなしていた。
風呂から出ると、私は入る前に脱いで軽く洗い乾燥機にかけておいた服をもう一度着た。
私の服はそこまで汚れてなかったからこの程度で構わないだろう。
さて、じゃあ……リビングに戻ると二人はおとなしく座って待っていた。
急に知らない家に連れてこられたら逃げたり暴れたりしそうなものだけど、そうしないのは諦めなのか、それとも首輪にそうさせない効果があるのか。
まあどちらにしても助かる。
「ごめんお待たせ、二人も風呂入っていいよ」
その言葉をナックルが通訳すると、なぜか二人とも妙に警戒した顔でこちらを見て、案内役のナックルと共にぎこちない足取りで風呂へと向かう。
その後風呂の方からはなんだかよくわからない歓声とか驚きの声が聞こえてきてなんか嬉しくなったが、そうも言ってはいられない。
二人がちゃんと浴室の中に入ったのを確認すると脱衣所へ行き、脱いだ服を確認する。……なんか変態っぽい行為だけど、洗うためだからな!!
……パンツだぁ。
いや待てパンツだぁ、じゃない落ち着け。
下着も上着もどちらも水道で軽く洗う。どちらもワンピースのような服とパンツ一枚ずつだったので洗うのは簡単だ。
洗濯洗剤は無いけどハンドソープはあるから、とりあえずこれで良いや。
明日になったら新しい服を創造してあげるし。
洗ったらしっかり水を切って、乾燥機へ。30分コース。
「ナックルー、出てきたら乾燥機の中に着替え入ってるからな!ちょっと時間かかるからゆっくり入ってていいぞ!」
「えー!?なにご主人?あんまよく聞こえないぜー」
言いながら、ナックルが浴室のドアを少し開けた!!
はっ、隙間から姫騎士と亜人ちゃんの裸からチラッと!!
すぐ目をそらす。大丈夫!背中!背中だけだった!!無罪!!!
「服は今乾燥機で乾かしてるから、ゆっくり入ってても良いぞ、って話!」
「あーはいはい了解だぜー」
そして扉を閉めるナックル。
……ふう、心臓に悪いな……いや、別にドキドキなんてしてないけどな!?
ちらっと見えただけの女性の背中にドキドキするなんて、そんな童貞じゃないんだから!なぁ!!はははははははは!!!
そもそも奴隷とご主人様の関係性なんだから堂々と見たっていいのでは?と言うことに気付いたのはそれから10分ほどリビングのソファでボーっとしたあとのことだったとかなんとか。
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