第7話 さあ伝説を始めよう。
「で、街で暴れてるってのはどんなモンスターなんだ?」
「駆け込んできた人の話だと、この辺りでは普通考えられない凶悪なモンスターで対抗手段が無いからみんな逃げ回ってるって言ってるぜ……ど、どうしようご主人!」
うーむ、神様生活初日にしていきなりピンチだな……まあ、ここは大きな屋敷の地下だしここに居れば安全そうだけど……この世界を立て直すために来た神様が初日に街の人たちを見捨てるというのも目覚めが悪いよな……。
「なあナックル。神様ポイントでモンスターを倒したりは出来ないのか?」
「えっ?えーと、そうだなぁ……倒す、っていうのが抽象的過ぎるんだぜ。何を持って倒すというのか」
そう言われれば確かにそうだ。
地面に倒れても倒すだし、起き上がれなくなるまで殴っても倒すだし、なんなら殺しても倒したと言える。
「じゃあいっそ、殺すのは?」
「それは出来ないぜ。いくら神様とは言え、自由に生き物の命を奪うのはご法度さ。神様が、「気に入らない人間だから消しちゃえ」なんてやってたらあまりにも傲慢すぎるんだぜ」
「神様ってのは傲慢なものでは?」
「……まあ、それは否定しないけど、でも神様がわざわざ個人や個体に対してどうこうするのは無しだぜ。天変地異を起こした結果多くの人間が死ぬ、とかは出来なくもないけど、狙った一人だけをってのは無しだぜ」
意外と自由が無いな神様……まあでも、言いたいことは何となくわかる。
神がいちいち個人や個体に対して力を使っていたのではキリがないもんな……もっと広い視野で物事を見ないとな……。
しかしそれはそれとして、だ。
今困っている街の人たちを見捨てる理由にはならない。
「じゃあ例えば、私の肉体を強化するとかしてモンスターと戦うとかは可能か?」
「えー、本気かい ご主人?」
私が頷くと、仕方ないなぁとばかりにどこからか取り出した説明書を確認するナックル。……四次元ポケット的な便利アイテムでも持ってるのか……?
「あるぜ、身体強化。でも……神様自身の肉体を強化するのは20ポイント必要だってさ。やっぱり、神様自身が何かに大きく介入するにはそれなりにリスクが伴うからな」
……20ポイントか……今日はもう残り……確か10くらいしかなかったよな。
となると……あ、そうか、そういうことか?
「じゃあ、誰か人間の肉体に力を与える、だったらどうだ?」
「えー……あっ、それなら5ポイントだって!人間の戦闘能力を10倍にする!ってのがあるぜ!」
やはりそうか、理屈が見えて来たぞ。
戦争にしても、自分自身が戦場に降臨して物事を収めるよりも、人間の英雄を作って送り込め、という話なのだ。
あくまでも人間のことは人間同士で解決させる。
神はその為の助力をするものに過ぎないのだ。
天は自ら助くる者を助く、というやつだ。
全てを「神頼み」で解決していては人間の発展は望めないからな。
ならば、この場で一番強いのは誰だ。
街に平和を取り戻せるのは―――――
「カートスさん!」
モンスターへの対応で忙しそうに指示を出しているカートスさんに声をかける。
「さっきの姫騎士、今すぐに契約することは出来ますか!?」
居るじゃないか、うってつけの存在が!!
私は、そんな状況じゃないと渋るカートスさんを強引に説得して契約を取り付けた。
金額はこの世界のお金で「100キンス」。
ナックルによるとこの国の平均的な年収の5倍ほどということだが、この世界に紙幣が流通していて、しかも1キンス札が存在したのが幸いしたのか、100枚の1キンス札がたった神様ポイント1で出すことが出来た。
冷静に考えればそれはそうだ。
お金とは言え所詮は紙、1ポイントでメモ帳を出すのとデザインが違うだけだ。
ナックルの言葉を借りれば、そこに人間が勝手に価値を乗せているだけで、紙自体に価値がある訳ではないのだから。
そして100キンスと引き換えに手渡されたのが、「隷属の首輪」と「支配の指輪」。
これはセットになっていて、首輪をつけられたものは指輪を持つ者に逆らえない、というシンプルだが強力なアイテムだ。
早速、銀髪エルフに首輪をつける。
拘束されているから大きな抵抗は無かったが、その鋭い眼光は「絶対にお前を殺してやるぞ」という強い意志に満ちていて、少しゾクっとした。いろんな意味で、ゾクっとした。
装着した途端に、持っていた指輪に何かドクンと脈打つような力を感じた。
……これが隷属、これが支配か。
待て待て、そんなのはあとだ。
「私の言葉がわかるか?」
話しかけてみたが……やはり通じないようだ。
手かせ足かせを外して貰ったが、襲い掛かってくる様子はない。
そこは隷属が効いているのだろう。
しかし言葉が通じないのでは指示が出せないな……仕方ない。
「ナックル、指輪を持って私の指示を伝えてくれ」
「はいよっ、お任せだぜ!」
ナックルに向けて指輪を投げると、ナックルはそれを頭からかぶり、駅伝のたすきのように肩から斜めにかけた。
格好良いだろう!みたいな顔をされたが……まあ、良いとしよう。
「では姫騎士よ。まず最初の任務として、外に居るモンスターを倒してください」
その指令に、目をまん丸にして見せる姫騎士。驚いてる驚いてる。
何か抗議めいたものを口にする姫騎士。
「武器もないのにか?と言ってるぜ」
ふむ……それもそうだ。武器…武器か……。
武器を物質創造……待てよ、何が使えるんだろうこの姫騎士は。
騎士だとやはり剣だとは思うが……残りポイントも少ない、確認が必要だ。
「得意な武器はなんだ?」
「……トライデント……?先っちょが三つになってる槍だって言ってるぜ」
……なるほど、ゲームとかで見たことあるな。ああいうヤツか。
あれなら……お、2ポイントで行ける。助かる。
「けど、アレはエルフ族に伝わる特別な武器だからこんなとこにそうそう無いだろう、って言ってるぜ」
「はい、あるぞ」
「!??!?!??!?!??!?%&%$('##**()''``{@@==?」
言葉はわからないが凄く驚いている。
ははは、見たかこれが神の技である。
「ほら、これがあれば行けるだろ?」
武器を手渡すも、まだ何か少し伏目がちにごにょごにょ言っている。
……なんだなんだ、思ってたのと違うな。
「ナックル、この子どうしたんだ?」
「……自信が無いってさ。一応騎士としての訓練は受けてたけど、初めての実践が人間の軍隊で、そこで負けて捕まった自分なんかが、モンスターに勝てるのかって」
そういうことか……そりゃまあ、姫にそうそう実践なんてやらせないよな普通は。
先ほどまでの鋭く厳しい目が、弱弱しく鈍い光のみを発している。
おそらく初実践で負けたことでトラウマを抱えているのだろうが……これから先のことを考えると、この姫騎士には戦力になってもらわないと困る。
荒事を収めるためには、強い手駒が必要だというのも当然あるのだけど……なによりも、この姫騎士には華がある。
美しいエルフの騎士……もし今後、英雄が必要になる事があれば――――これほどの適役も無いだろう。
その為の最初の一歩として、このモンスター退治をまずやってもらう。
これは、今後100年にわたる壮大な計画の序章なのだ。
……と言うことを今思いついた。
こういうのはハッタリが大事なので、最初からそういう計画だったみたいなことを後々語るとしよう!!
さあ、では始めよう。
生まれたばかりの伝説を!!
となれば、それっぽくやらないとな。
「ナックル、私の言葉をそのまま伝えてくれ」
「あいよっ」
私はゆっくりと、意識的に姿勢良く歩い姫騎士に近寄る。
「案ずるな騎士よ……私がそなたに力を授けよう」
そして、座っている姫騎士の頭上に手を添える。
実際はポイント使えばすぐ出来るっぽいのでこんな仕草は必要ないのだけど、何事も形から入るのは大事だ。
この姫騎士が、そして奴隷商のカートスさんも、伝説の始まりを後の世に語るためには必要なのだ。
儀式めいた神々しさがね。
「――――神秘なる神の息吹よ、騎士の身に宿れ! ゴッドブレス!!」
言ってから、ゴッドは泥の意味だった、と思い出したけどまあいいや。
えーと、じゃあ神様ポイントを5使って、姫騎士に10倍の戦闘能力を付与!!
……特に光ったりとかしないけど……たぶん出来たっぽい!!
……出来た、よね?
「……どうだ騎士よ。感じるか?力を」
姫騎士は、自分の両手を見つめてわなわなと震えている。
あっ!これ秘められしパワーに目覚めた人がよくやるポーズだ!
何か口走った!きっと、「こ、この力は……!」みたいなことだ!
成功だ!これは成功だぞ!!
「では行け騎士よ!!その力、この街の人々を守るために使ってみせよ!!」
先ほどまでとは目が違う。
覚悟が決まった姫騎士は、トライデントを持って外へと駆け出していく!!
「よーし!私たちも見守りに行くぞナックル!」
「えー、危ないから室内に居ようぜご主人ー」
不満を口にしつつも付いてきてくれるナックルと共に、騎士の後を追いかけて外へ!
私たちの後ろから、カートスさんも恐る恐る付いてくる。
目の前で起きたことの顛末を確認したいのだろう。
それでこそ、最初の目撃者。
伝説を語り継いでくださいよ!!!
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