第3話 まずはやってみよう。

「神様ポイントっていうのは、神様が使えるポイントの事なんだぜ!」

 そのまんまだなネーミングが。

 もしや……

「あのクソ女神が名付けたのか?」

「そう聞いてるぜ!」

 なるほど……さてはナックルのネーミングも大した意味無くて拳で切り開くとかなんとかは後付けだな?

「……まあ名前は良いとして、そのポイントで何が出来るんだ?」

「なんでもさ!ポイントを使えば、何でも出来るぜ!なんたって、神様なんだからな!」

「なんでもって……なんでも?」

「そうだぜ!」

 ……さすがに怪しすぎる。

 いくら神様だからって、そんな無尽蔵に何でも出来るなんてことあるはずがない。

「ただし、ポイントの範囲内で、だけどな!」

 ほーら出て来たぞ追加条件が。

「なんだよポイント範囲内って。私は何ポイント持っているんだ?」

「えーと、ちょっと待って、確か説明書があったな……ほらこれだ!」

 ナックルは、どこから出したのか妖精の体よりも大きい冊子を取り出した。

 ちょっとした家電製品の説明書くらいの大きさと厚さがあるぞ。

「よいしょっと、えーーと……」

 取り出した説明書を地面に置いてページをめくるナックル。

 飛んだままでは扱えない大きさだもんな。

 ちらっと目をやるが、読めない。なんだこの文字……あっ、あの契約書の文字に似てるな。神の世界の独自文字か何かなのか?

「あっ、これだぜ。えーと、初心者神様にはまず、毎日100ポイント与えられるんだって」

 100ポイントと言われても……基準がわからんな。

「そんで、毎日使っても使わなくても日が明けたら100ポイントに戻るから、使い切った方が得だって書いてあるぜ。ポイントは次の日に持ち越せないみたいだな」

 なんだそのスマホゲームのスタミナみたいなシステム。

 つまり毎日100ポイント貰えるけど、使わずに溜めて行けば1000ポイント使える、とかじゃなくて100が上限で、毎日上限まで回復、ってことだな。

 システムはわかった。そうなると問題は……

「で、その100ポイントってどの程度の事が出来るんだ?」

 100ポイントにどの程度の価値があるのか、だ。

 おそらく、この世界を平和に導くためにその神様ポイントでなんらかの奇跡みたいなものを起こせってことなのだろうけど、100使って何が出来るんだ?

「それは、ここに書いてあるんだけど……全部説明するの面倒臭いぜ……」

「なんだよ、ちょっと見せてくれよ」

 ……見たが、やはり何が書いてあるのかわからん……くそ、読める文字で作ってくれればいいものを!!

「これ読めるように出来ないのか?」

「えーと、あ、神様ポイントで言語を習得することも出来るぜ!でも、80ポイントも使うみたいだけど……どうする?」

「いや多いな!8割取られるのか!?」

 ……まあでも考えてみれば、新しい言語を習得するというのは大変な労力を要するよな。もしこの世界の人たちに言葉が通じなかったとしても、それを理解できるようになればきっといろいろなことがスムーズに進むだろう。

 そう思えば80ポイントは決して法外ではないのか……しかし……。

「今日のところはやめとこうぜ!だってこれからここに拠点作るんたぜ!?80ポイントも使ったら勿体ないよ!」

 そうか、そうだな。

 つまりこの空き地は、ポイントを使って自分の住みやすい家を作れ、ということなのだ。いうなれば神様ポイントのチュートリアル的なイベントとして意図的にそうしたんだろう……たぶん。

 決して家を用意するのが面倒だったとか、そういうことではない……ハズ……だと思いたい……が、あのクソ女神に対する信用はゼロなので、疑惑は深まる。

 とは言え、変な家を用意されるよりは自分で好きに作れるならその方がマシではあるので、良しとしよう。


「じゃあ……作るか!拠点を!!」



 と、意気込んでみたは良いものの、どうすりゃいいんだ?

「ナックルー、まず何すればいい?」

「ふふん、そこはこの秘書妖精にお任せなんだぜ!」

 どんっ、と自分の胸を叩くも、自らのパンチ力の強さで咳込むナックル。

 ……ベタなミスだな………信頼しても良いんだよなこの秘書?

「けほけほっ……んっ、うん。とは言え、難しいことはないんだぜ!これをこうしたい!と考えればそれが目の前にイメージとして出てきて、それを作るためには何ポイント必要なのかも教えてくれるから、あとは実行するだけ!やってみるのが早いんだぜ!」

 イメージ……イメージねぇ……。

 とりあえず、小さな小屋を想像してみるか。山小屋みたいな、丸太で作られた木の家……。

 すると、目の前にヴォン……という音と共に、半透明の小屋がイメージ通りの原寸大で現れる。

「……凄いな……これ触れるのか……?」

 手を伸ばしてみるが、すり抜ける。ホログラムみたいなものだろうか。

「動かすことも出来るぜ!」

 ナックルに言われて、動かしてみる。

 なるほど自由に動く。なんなら空中にも移動出来る。

 そうか、これで実際に完成した時のシミュレーションが出来るのか。この土地の中でどこに置くべきか、今はないけど他の建物とのバランスを見たり、さらには家の中だったりしたら、家具を出した時にどう置かれるのかもわかるな。

 凄い便利さだ。さすがに神の力と言うだけのことはある。

「……これ、空中で実体化させたらどうなるんだ?」

「どうもこうも、空中で実体化されてそのまま落ちて来るぜ。落下の衝撃で壊したいならやったらいいけど、ポイントの無駄遣いになるだけだぜ? 要らなくなったものを消すにもポイント使うしな」

「……捨てるにもリサイクル料ならぬリサイクルポイントが必要なのか……嫌なリアルさだな」

 まあ、別に人力で片付ければ無料だろうけど、家を壊して片付けるのは面倒過ぎる……というかたぶん無理なのでやめておこう。

 そこでふと、イメージ小屋の上に数値が見える。

「……10……これは、10ポイントってことか?」

 思ったよりも消費ポイントは少ないな。

「そうだぜ。まあこのくらいの小さな小屋なら10ポイントだけど、せっかくなら大きくて快適な家にしようぜー」

 なるほど、大きさや価値によってポイントが変わるのか。

 確かにこのサイズの小屋では中にベッドと、小さな机と椅子でも置いたらもう余裕はあまりない。……あっ、キッチンも必要か。

 うーーん……それも一緒に作れるのか?

 イメージしてみよう。内装にキッチンと、ベッドと机・椅子……あっ、ポイントが変わった。25ポイント!?結構行くな……キッチンが5、ベッドが5、机と椅子が3、2ポイントって感じだろうか。

 そうだ、トイレも欲しいしシャワーも欲しい……となると100ポイントって意外と余裕ないぞ!?

「ご主人ー、いろいろ考えてるみたいだけど、家具とかは明日でも良いんだぜ。だからとりあえず豪華な家建てようぜー。ボクっち良い家に住みたいぜー」

「なんか秘書が欲望丸出して来たんですけど……?」

 まあでも、言わんとすることは理解できる。

 成人するまではとにかく窮屈な生活だったので節約する癖がついているが……さっきの説明によるとポイントは使い切っても明日には100に戻るし、残しておいても持ち越せない。

 だったら使い切るべきだし、これから暮らしていく家なんだからケチって住みづらくなるよりは快適さを求めたい。

 ……とは言え、あんまり広すぎても使いづらいし……いや待てよ、今後人が増えたりって可能性もなくはないのか………仲間、とか?

 イマイチ想像できないけど、いろいろな可能性を考えつつベストな選択肢は――――これだ!!


 と言うことで出来上がったのが、ごく普通の二階建ての民家です。


「……ご主人さ、考え過ぎて結局何も考えてないみたいな感じになってない?」

「……自分でもそう思う」

 外観は完全に、モデルハウスのような白い壁の長方形二階建ての家で、内装も奇麗で広くて便利ではあるが、特別な何かはない。

「まあでも、結局は慣れた家が一番いいんだよ。ほら、中に入ってみよう」

 縦に細長いすりガラスが付いた黒いドアを開けると、まず玄関があってそこから廊下で直結して一階の大半を占める広いリビングと、対面式のキッチン。

 リビングの端には二階への階段があって、奥の扉の向こうには広い風呂場とトイレ。あとは残ったスペースに4畳半ほどの小さな和室。

 移動する時に基本リビングを通らなければいけないので、家族の関係が希薄になりづらいという作りだ。

 ……って、これ昔見にいったことあるモデルハウスそのままだな?

 どうりでイメージしやすかったわけだ!!

 確かあのモデルハウス、夫婦と子供の3人家族を想定して作られていたっけ。

 家族て!!こっちで家族作るのか私は!?

 まあでもこの広いリビングは大きな窓から入る光も含めて気に入っている。

 二階は寝室含めて3つの部屋と、広めの収納。さらには屋上に出られる隠し階段もある遊び心も忘れない作り。

 屋上にはソーラーパネルも付いてるから発電も出来るし、蓄電器も一体化してるぞ!

 ついでに家の裏に貯水槽も作っておいた。異世界で水道の確保は難しそうだしな。

 そのうち近場で湧き水や綺麗な川を見つけたらその水を引き込んでも良いけど……知らない土地の生水は危険だから、水は定期的に神様ポイントで出そう。

 よし、電気と水道もクリア出来た。

 ――――うん、これは良いんじゃないか?

 日本だったら、大会社に就職して順調に出世した人が40代後半でついに建てた家、って感じだ。悪くない。

 家具もモデルハウスのままだから結果的に85ポイントも使ってしまったが、満足する家が出来た。

「うーん、ボクっちもっとお城みたいな家が良かったんだぜ」

 やだよそんなの、住みにくいしそもそも誰が掃除するんだ。

 ……はっ、そうか、掃除の問題もあるな。

 まあこの広さなら出来なくもないが……神様になったのに毎日掃除するというのもな……神様ポイントで掃除出来るのかな……いやさすがにそれは勿体なくないか?

 人力でも出来る事にそうそうポイントは使いたくない。

 誰か掃除してくれる人とか…………

 

 ………はぁっっっ!!!!


 その時、電光石火の閃き!!

 これはもしや、チャンスなのでは……!?

 憧れ続けた、中学生の時から憧れに憧れた―――――――――――


 ――――メイドさんを雇うチャンス!!!!


 何ならいっそ神の力で、理想のメイドさんを創造するということも可能なのでは!?

「なぁナックルよ!!例えば、その……神の力と言うのは、生き物を作る事も可能なのか!?!?」

「なんだよ急にテンション高くなって気持ち悪いぜ……」

 いかんいかん、メイドさんにテンションが上がってしまった。

「いや、どうなのかなと思ってな。家のことをやってくれる人が居ると助かるじゃないか」

「ああ、そういうことか。でも駄目だぜ。生命体を作るのはいくら神とは言え御法度だ。それはもっと上の創造神や絶対神にのみ許されているからな」

 そうか、さすがにダメか……まあ、理想のメイドさん作って奉仕させるというのもだいぶ変態性高いしな……。

「それだったら、人を雇う方がよっぽど早いぜ。金ならいくらでもポイントで出せるからさ」

「そうなのか?」

「ああ、元々 金なんてのはただの安い鉱物や紙に、人間が勝手に価値を持たせたものだからな。作ること自体は大してポイント必要ないんだぜ」

 そうか、それは神様ポイントの運用に際してだいぶ有益な情報だ。

 少なくとも金に困ることはないというわけだ。

「どうする?人を雇うなら、近くにそれなりに大きな街がある。案内するぜ」

 街か……メイドさんはもちろんだが、そもそも私はこの世界を救うためにやってきたんだ。

 街の様子を見に行くのも必要だよな。


「よし、行ってみるか。まずは第一街人発見の旅だ!ダーツは投げてないけどね!」

「なんだそれ?」

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