翔太

「翔太、俺と一緒に野球しようぜ。」

 高校生に混ざって練習するのが日常になってしまうほどに時間は過ぎた。そろそろ、翔太とも肩を並べられるんじゃないかと思うほどに。

 なるべく自然に、なるべくいつも通りに。そう思って何回も練習した言葉を口に出す。3キロ走った後みたいに心臓が脈打つ。この日のために、この言葉のために頑張ってきたんだ。

「え、いいけど。どうしたの急に。」

 少し不思議そうに笑って、翔太は首を傾げる。

「あ、えっと、今度大会あるじゃん。それ来てよ。俺も練習したからさ。」

 あまりにも簡単に翔太が試合に参加することを快諾してくれたから、驚いてしまって挙動不審になってしまった。話す準備をしていた言葉がお腹の中に溜まって、むずむずとする。

「え、めっちゃ久しぶりじゃん。航と野球するの楽しみにしとくわ。」

 まるで散歩に行こうと誘われた子犬のように、翔太はニコニコと笑っている。いつだって、翔太は笑っている。

「おう。」

 だから、翔太が何を考えているのかたまにわからなくなるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る