第五話【ご主人様、セーラー服の胸に、お顔を埋めないでください!!】

『ご主人様、そんなにがっかりしないでください。なずなは試着だけでも結構楽しかったですよ』


「そう言って貰えると嬉しいよ。まさかスタイルが良すぎて君に合う服がないとは思わなかったから」


 今日はなずなと楽しいはずのファーストデートなのに俺がいきなり落ち込んでるのには予想外の理由わけがあった。


『私、普通の人間の女の子と比べて、お洋服や下着インナーのサイズが違うんですね』


 次の目的地へと向かう駅への道すがら、俺の隣を歩く可憐なセーラー服姿のなずな。ファッションにうといとはいえ、なぜ彼女の体形にもっと早く気が付いてやれなかったのか?


 プラモデル彼女であるなずなは、まるで漫画やアニメから抜け出たような魅力的なスタイルを誇っていた。身長やスリーサイズは現実の女の子に近いのだがすらりとした手足の長さや細さが違っていた。お店で試着した洋服や下着ブラジャーも各部のサイズが体形に合わなかったんだ。


『それが分かっただけでも収穫ですから。う~んなずな、またまたひとつお利口さんになっちゃいました!! 物知りなご主人様にこれで一歩近づけましたね』


「なずなはどこまでポジティブな考え方なんだ、その明るさを俺にも少し分けて貰いたいよ、まったく」


『えへへ、同じ言葉を仲のいい先輩からよく言われてました!! なずなは悩みがなくて羨ましいって』


「ええっ、仲がいい先輩ってもしかして彼氏だったりして!?」


『もうっ、違います!! 女の先輩ですよ、それになずなはでしたから、こんなに近い距離で一緒に過ごす男の人はご主人様が初めてです……』


「箱入り娘!? た、確かに最初から箱に入ってたよね、君はプラモデル彼女だったから」


『はいっ!! 私はご主人様だけのぷらかの! ですから♡』


 ――なずなの可愛さはやっぱり反則級だ。俺は先ほど立ち寄った下着屋さんでの騒動を振り返った。その件で彼女に文句を言いたいけど、飛び切りの笑顔を向けられるともう何も言えなくなるな。



 *******

               


「ええっ!? なずなの下着選びになんで俺も下着屋さんに入店しなきゃいけないのぉ!!」


『し、静かにしてください、声が大きすぎます。まわりの人がこっちを見ていますから……。なずなはご主人様以外の人と接するのがまだ怖いんです。だから何とかお願いします!!』


 絶対に無理!! のどまで出かかった言葉をかろうじて飲み込んだ。女の子とデートでショッピングモールを散策するだけでも初めての経験なのにS級美少女の下着選びに同行するだと!? そんな浮かれたバカップルみたいなうらやま、いやいやけしからん行為は十六年間彼女いない歴な俺の辞書には載っていないぞ。


『ご主人様、とにかくなずなの後についてきてください!!』


「いらっしゃいませ!!」


「ちょっ!? なずな、無理やりを俺の手を引っ張るなぁ、うわっ、何だこの色とりどりのお花畑みたいな店内空間は!! あああ目のやり場に困るぅ……」


 下着専門店に引っ張り込まれた俺は目を白黒させていた。明るい照明の店内には所狭しと女性物のブラやパンツが陳列されていた。


『ご主人様が恥ずかしくないように手早く済ませますから安心して下さい』


「ああ、そのほうが俺も助かるよ」


 なずなの言葉に安堵したのもつかの間、彼女が手に取ったブラジャーを片手に固まっているのが見て取れた。いったいどうしたんだ!?


『ど、どうしよう!? ブラジャーなんて自分で買ったことないからサイズ選びが全然分かんないですぅ……』


「ええっ!? ここまで来てそれなの!! じゃあ店員さんを呼ぼう、なずなの胸のサイズをちゃんと測ってもらおうよ」


『む、胸のサイズ!? そんなの恥ずかしいです!!』


 辺りを見回す仕草に気がついたのか近くにいた店員さんがこちらに近づいてきた。ちょうどいいや、店の入り口にはお気軽に声を掛けて下さいと張り紙もあったしな。


「すいません、ちょっと商品の試着をお願いしてもいいですか?」


『ご主人様、まだ声を掛けちゃ駄目ぇ!!』


 店員さんに声を掛けようとしたその瞬間、腕を引っ張られた俺はなずなと試着室フィッティングルームにもんどり打ちながら一緒に飛び込んでしまった。狭い個室の壁に勢いよく身体がぶつかる。


「おわっ!? なずな、俺はいったいどうしたんだ。目が、目が見えない!! 何だ、この顔に感じるめっちゃ柔らかい感触は!!」


『あわわわっ!! ご主人様の顔面を私のはだけたセーラー服の胸元で押し潰しちゃってるよぉ。だ、大丈夫ですか?』


 なずなは思ったより着やせするタイプだと我が身を持って思い知らされた。俺の顔面で測定フィッティングしたサイズは大玉スイカップか!?


 カーテンで仕切られた試着室の前がとても騒がしくなる。それはそうだろう、これだけ大立ち回りを演じていれば。


『わわっ!? 人が来ちゃう!! もう人間の女の子状態モード維持いじは無理ですぅ。ごめんなさい、ご主人様……』


「ええっ、なずな、まさかこの状況でプラモデル状態モードに戻るとか嘘だろ!! どど、どうしたらいいんだ」


 次の瞬間勢いよく試着室のカーテンが開かれた。声をうしなう女性店員の視線が突き刺さる。


 片手にブラジャー、もう一方の手にはプラモデル状態の十分の一サイズに戻った物言わぬなずなを握りしめたまま、俺は試着室の床に座り込むしかなかった……。


「お、お騒がせしてどうもすみません……」



 なずなの行きたい場所は!? の次回に続く。


 

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