第三話【ご主人様、私の身体全部をあなたに捧げます……】
『ううっ、男の人の物ってやっぱり大きいんですね……』
「なずなにはちょっとデカすぎたか!? これでも普通のサイズだと思うけど、きっと君の身体が
『いえ全然嫌じゃありません、かすかにご主人様の匂いも感じられて私はすっごく安心出来ます。気にしないでこのまま準備を続けてください』
「ああ、わかったよ。その場でじっとして動かないで、服の
『は、はい、お願いしますご主人様』
「うおっ、めちゃくちゃ可愛い!! なずな、工夫すれば俺のサイズでも君の身体に
『な、なんだか恥ずかしいです。あんまり見ないでください』
「なずなの照れた表情も込みで食べちゃいたいほど可愛いよ、その顔は破壊力抜群だ!!」
『んもうっ!! ご主人様のいじわる、やっぱりチャラ
「まさか本心からの言葉だよ、嘘じゃない。それとなずなにだけだよ、素直に自分の気持ちを言えるのは」
『は、はわわわっ、それってご主人様。なずなのことを!?』
「いまは目の前に集中して。部屋でやる初めての共同作業なんだから」
『は、はい、なずな一生懸命がんばってみます』
「なずなにはキツいかもしれないけど同時に動かすから。絶対に無理はしないでくれ、大事な君に怪我をさせたくない」
『ご主人様わかりました、無理はしません』
「じゃあ、いっせ~ので動かすぞ。うりゃああっ!!」
『うっ、くううっ!! ご、ご主人様、この角度で大丈夫ですか?』
「俺のほうに重心を
『は、はいっ、よいしょっ!! ほんとだ身体が楽になりました』
「よし、なずな、背中を部屋の壁につけてフィニッシュだ。いくぞ!!」
『ご主人様と一緒なら私はどこへでもお
『はあはあ……』
「ふうふう……」
*******
「はああっ、かなり重いなダブルベッドの移動って。なずなは大丈夫だったか? 部屋の急な模様替えにつき合わせちゃって本当にごめんな」
『はいっ!! 大丈夫です。こうみえても私、けっこう力持ちなんですよ。プラモデル
まっ白なおでこに玉のような汗を浮かべ彼女は笑顔で答えてくれる。なずなは一緒のときは普通の清楚な女子高生さながらに思えた。
「そんなに腕を振り回すなよ。いまのなずなが生身の女の
『えっ!? ご主人様の衣装が何ですか、最後が良く聞き取れませんでした』
「別にい~の、なずなは別に知らなくても、これは俺の思春期事情なんだから」
『それにしても借してもらった男物のパジャマ、肌触りが良くってとっても気持ちいいです。ほんのりご主人様の匂いもするし』
「君に替えの服がないって知らなかったから。ごめんよなずな。俺のパジャマを洗濯出来ないまま着てもらって」
『いいえ大丈夫です。わがままを言えるならなずな、ご主人様とお揃いのパジャマが欲しいな。あっ!? 私って他に洋服や
「いや、構わないよ。明日洋服と一緒にパジャマも買ってあげるから」
『うわあっ、本当ですか!? やったぁ!! なずな嬉しすぎます♡』
大き目のパジャマを羽織って無邪気によろこぶ姿を見ているだけでとても
きょう一日彼女と過ごして分かってきたことがある。自分だけの覚え書きとしてなずなには内緒で日記帳に書き出してみた。
ぷらかの! こと、
そして一番重要なことだが。なずなは俺の前だけ生身で等身大の人間の姿になれるようだ。まだ確証が持てないのは彼女を外出させていないからだ。俺の思春期特有の妄想が生み出した
宅急便が夕方、家を訪れた際に彼女は突然、一階のリビングから姿を消した。文字通りかき消すようにその場からいなくなってしまったんだ。慌てて自分の部屋に置いてある紫陽花少女菜園の箱を確認すると、プラモデル
頬を染めてあわわわっ!? といまにも叫び出しそうな困った表情にフェイスチェンジしたまま物言わぬプラモデル彼女。対面することが出来て俺は思わず安堵の息を漏らしてしまった。
【ふええ~~んご主人様、だってなずな怖かったんだもん、急に目の前からいなくなってごめんなさい】
後で人間への
『じゃあご主人様、お部屋も模様替え出来たし、さっそくベッドに入りましょうか?』
「ううっ、やっぱりお風呂と同じく寝るのも別々にしようか……」
この後に及んで俺は怖気ついてしまった。据え膳食わぬは何とやらの精神は今朝のスカートを履き替えさせるドタバタで精神力を使い果たしたから。
『いまさら駄目ですよ。それに決めたんです。ご主人様が生まれたての私にいろんな感動を与えてくれるから、今晩はなずながあなたにお返しをしたいって!!』
「わわっ!? なずないきなり抱きついてきて何をするんだ!!」
『ご主人様、じっとしていてください。きこえますか、私の心臓の音』
ダブルベッドに押し倒され、なずなの腕に顔を抱きすくめられる。俺の貸したパジャマ越しに彼女の柔らかな感触が耳から頬に伝わってくる。
トクン、トクンと規則正しく脈打つ生命の鼓動が耳に流れ込んできた瞬間、俺の中に不思議とよこしまな考えは浮かんでこなかった。
「君の心臓の音がきこえるよ、すごいな、やっぱりなずなはちゃんと生きているんだ」
いつの間にか俺は泣いていた。これまでの人生で流してきた後悔の想いではなく喜びの感情。そんな涙を浮かべた自分自身に驚いてしまった。
彼女がさも愛おしそうに俺の頬を伝う涙の軌跡を、その細い指先で
『はい、なずなは生きています!! ご主人様に貰った大切な命です。この胸のドキドキがこんなに幸せな気持ちにしてくれるなんて初めて知りました。ぜんぶあなたから教えて貰った素敵な感情です』
「俺が君に与えた命……」
『だからご主人様にご恩返ししたい、この身体も心もあなたに捧げます』
「なずな、俺も君と一緒にいたい」
『なずなは欲張りだからこんな夢をみちゃいます。いつか私が本当の人間になれたらご主人様のお嫁さんになりたい』
「なずな、俺は……」
『ああっ、私の妄想にべつに返事はいいですから!! いまはぷらかの! で充分満足しています』
君と同じ気持ちだ。そう言いかけた俺の言葉は彼女に
――いつしか幸せな眠りに引き込まれて朝まで夢は見なかった。
次回に続く
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