優しい僕がほんの少しの勇気を出した。

真空丸

優しい僕がほんの少しの勇気を出した。

 『優しいね』と言われることが多い

 自分が優しい人間じゃないことは1番に自分が分かっている。それでも周囲からそう言われるということは自分の認識が間違ってるのかもしれない。



 午後の退屈な講義中、僕はfラン大学生らしく、流し見でSNSを確認しながら、そんなことを考えていた。

 SNS中では昔にイクメンと話題だった俳優による浮気がトレンド入りし、多くの誹謗中傷が飛び交っている。閲覧数の多い、罵詈雑言じみた呟きを確認しているうちに午後の講義は終わっていた。

 講義が終わり、友人達が飲み会の話をしているなかで、僕は1人、帰りの支度をしていた。友人達から『どうしたの?』と声を掛けられると、僕はバイトがあるからと断りを入れ、教室を後にした。



 片道2時間の道を電車で帰宅している途中、メールの着信音がスマホから鳴った。眠気に耐えながらメールを開き、送信者を確認すると、バイト先の先輩の名前が確認できた。

 少し期待をしながらも、本文に目を向けると今日のシフトを変わって欲しいというものだった。

 今日は早く大学が終わったため、母が仕事から帰宅するまで1人で過ごしたい気分だったが、すぐに了承する連絡を先輩に入れた。



 夕方を過ぎ、辺りが暗くなり始めたバイトの途中、1人でレジをしていると男性客を連れた先輩が来店された。先輩はシフトを変わったお礼を僕に告げると、男性客と一緒に食べると思われる鍋の材料を買っていた。

 先輩達の退店際、入り口の前でこちらを見ながら話している先輩と男性客の声が聞こえた。『あいつだろ、お前が言ってたの』『うん、優しい子なんだけど、話しても面白くないし、飲みに行ってもお酒が全然飲めないから、一緒にいても楽しくないんだよね』



 テレビではドラマが多くやっている21時ごろ、スマホをいじるわけでもなく手にし、テレビを意味もなく眺めていると母が仕事から帰宅してきた。

 母は若干のヒステリーを起こしながらも、値引きシールの貼ってあるコンビニの弁当を僕に手渡し、彼女の自室へ入っていった。

 リビングにある大きなテーブルで1人、母が買ってきた弁当を食べた後、風呂に入り、僕も自分の自室に戻った。

 弁当も冷たかった。



 辺りが寝静まった深夜帯、1人静かに僕は日課である日記に今日あったことを書いていた。この日記に区切りをつけると、僕はベランダへと赴いた。そして、ほんの少しだけ勇気を出した。

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