俗世

かいばつれい

俗世

 マッチングアプリで知り合った女の子に、いい店があると言われてついて行った店で盛大にぼったくられた。

 自分から店に誘った時点で怪しいと思った俺は彼女と飲み比べをして潰してやった。今ではすっかり泥酔してテーブルに突っ伏している。

 手持ちの金では払いきれず、金額がおかしいと店長に抗議したら、店の奥からスキンヘッドで強面の大きな男が二人出てきて俺の前に立った。

 顔つきや態度からして堅気の人間ではなさそうだった。

 「困りますねえお客さん」スキンヘッドの一人が言った。

 「あれだけ飲んどいてそりゃないでしょ」さらにもう一人が言った。

 「ごめんなさい。でもお金はこれしか持ってないんです。キャッシングはブラック入りしてるので借りられません。構いませんから無銭飲食で警察に突き出してください」

 至極冷静に俺はスキンヘッド二人に言った。

 「そういう問題じゃねえんだよ。キャッシングが無理なら質屋に入れられそうなもん持ってって金作れやコラ」

 「なんなら臓器売るか?人間ひとつやふたつ取っ払っても平気な内蔵なんてたくさんあるんだぜ。質屋か臓器どっちか選びな」

 やはり警察という単語を口にした途端、二人の口調が一変した。

 この手の輩には、目には目を、だ。

 「あ?サツ呼ばねえの?呼べるわけねえよな。アコギな商売してりゃ無理だわな。そこで潰れてる女もグルだろ。もう少し酒に強い女使わなきゃ商売になんねえぞ。ま、アンタらみたいな半グレじゃこの程度しか使えないんだろうけど。客引きが駄目ならマッチングアプリかい?呆れたね。さて、これからどうする?あいにく金になりそうな物は持ち合わせてないんでね。内臓もやめといたほうがいいな。心臓どころか内臓全部、毛がボーボーで売りもんになりゃしないぜ。アンタラの涼しそうなその頭に俺の内臓の毛を分けてやりたいくらいだよ。聞いてんのか、このウスノロども」

 そこまで言うと二人の頭がみるみる赤くなり、直後に二人がストレートをかまそうと突っ込んできた。

 俺は即座にかがんで二人の股に拳を直撃させ、怯んだ隙にアッパーを食らわせた。

 この程度で終わるはずもなく、片方が酒瓶を持って俺を殴ろうとしたが、俺はそいつを避けて潰れている女の首根っこを掴んでやつの前に出した。一瞬やつが静止したのを見逃さなかった俺は女の背中を押し、やつに押し付け、動揺している間に酒瓶を奪って後ろを振り返った。後ろから俺を襲おうとしたもう一人の頭に酒瓶を叩きつける。酒瓶が粉々に砕け散り、そいつは意識を失って倒れた。

 女を押し付けられて動揺していた片割れは女を剥がし再度俺に向かってきたが、俺はするりとかわし、テーブルのデカンタを持ち、やつの後ろに素早く回り込んだ。やつの馬鹿でかいケツにデカンタの口を突っ込んでズボンの上からグリグリと当ててやった。

 「ああ・・・」悶絶して全身の力が抜けたスキンヘッドの首筋にチョップしてやつを失神させた。

 三十秒とかからずに方がついた。

 直立したまま固まっている店長の胸ポケットの煙草を抜き取り、伝票の数字より一桁少ない金をそこに入れ、俺は奪い取った煙草に火をつけて店を出た。

  外の繁華街は、混沌とした様相を呈していた。父親くらいの年の男と腕を組んで歩く少女や、市販薬の空箱を持ちながら釣り上げた魚のように道路で痙攣している少女、ネックレスとバールを持ってアクセサリー店から出てきた少年、地べたに座り茨城訛りで会話するヤンキー風の男女、複数人の男に絡まれている眼鏡の男性、野太い声のゴスロリを着た男性、ビデオカメラを片手に嫌がる女性にしつこくスリーサイズを聞く青年、卑猥な格好で危険行為をする女性とその動画を撮影している仲間らしき男性。

 俺は紫煙をくゆらせながら喧騒の中へと入って行き、ネオンの代わりにLEDが照らす夜の街に消えた。

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俗世 かいばつれい @ayumu240

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