遠遠遠距離恋愛
あなたは遠距離恋愛に興味はある?
もうしてる? 携帯電話があれば、地球の裏側でも連絡が取れるもの。遠くの人と知り合えるなんて不思議ね。
私の友達にもいたよ。珠子というの。ネット上で出会った人と仲良くなって、恋愛まで発展したんだ。
珠子は毎日嬉しそうに相手がどんな人なのか私に報告してきた。頭が良くて、珠子を気遣ういい人だって。研究者とも言っていたかな。
当時わたしたちは学生だったから、彼はきっと年上ね。珠子は相手に夢中だった。でも、しばらく彼女の話を聞いていくうちに、私は少し妙だと思ったの。
ねえ、あなたはネット上に書かれている人のプロフィールをどこまで信じているのかな。見たそのままを受け取ってる? でも、わざわざ経歴や受賞歴が本当かどうか調べたりはしないものね。
珠子の語る相手のスペックはかなりのものだったの。宇宙開発の携わっていて、副業で会社を持っている。おまけに100メートル走は9秒台。どう思うかしら? さすがに盛りすぎだと思うでしょう。本当にそんな人が存在しているなら、絶対に有名なになっているはずだもの。
それに珠子は相手の姿を見たことがなかったの。住んでいるところも知らないって。テレビ電話が当たり前の時代によ。私は珠子がその人に騙されていると思ったわ。友達として、そのことを指摘したの。
すると珠子は激怒したわ。「噓と決めつけるなんてひどい」って。すごい剣幕だった。恋をすると冷静になれなくなるって本当なのね。あんな珠子は見たことがなかった。
「なら、どうして相手は姿を見せないの?」
私は引き下がらなかった。だって、このまま彼女を放って置けなかったから。
すると珠子は、
「それは、私がまだ高校生だからよ。プロポーズされているの。一緒に住んでくれるなら、姿を見せるって。彼の暮らすところでは、そういう風習があるの」
なんてことを言った。
結婚前に姿を見せることは出来ない。そういう国はあるにはあるけど、やっぱり納得できなかった。珠子は卒業したら結婚すると言っていたわ。私は卒業までの間、なんとか珠子を説得しようとし続けたけど、彼女の決意は変らなかった。
とうとう、卒業の日が来たの。式の終わりに、私は校門の前で友達やクラスメイトと別れを惜しんでいた。その中には珠子もいたわ。友達がひとりひとり帰っていくうちに、私と珠子だけが残された。
私は珠子に最後の説得がしたかった。彼女はきっと私に最後の別れを言うために残ったのね。
「ねえ、本当にあの人と結婚するの?」
「もちろん。昨日、彼に連絡したわ。今日迎えに来てくれるの」
珠子は幸せそうに頬を赤らめていた。
「親には?」
「内緒。でも駆け落ちするって書き置きは残しておいた」
もう、私に彼女を止めることは出来ない。相手がどんな人だろうと、決めたのは珠子。
「わかった。幸せにね」
そう私が珠子に別れの言葉を言ったとき、空に大きな流れ星が落ちてきたの。いやあれは流れ星ではなかった。だってこちら向かって落ちてきたのだもの。隕石かと思ったわ。この世の終わりとも思った。
でも目に見えたのは、銀色に輝く円盤。映画でしか見たことのなかった空飛ぶ円盤が現実として目の前に現れたの。驚いて腰を抜かした私と違って、珠子は嬉しそうにその円盤に手を振っていた。
彼女の元に降り立った円盤からは、銀色の肌の見るからに宇宙人な人物が出てきたの。その宇宙人は珠子の手を取って、やさしくキスをしていたわ。
私は口をパクパクさせながらその光景を見ていた。心臓もバクバクよ。まさか、珠子の彼氏が宇宙人だったなんて想像もしていなかったんだもの。
動けなくなって固まっている私に、珠子と宇宙人が仲良く手を繋いで近づいてきたの。
私は怖かったわ。だって宇宙人と言ったら、地球のものを拉致するイメージがあるでしょ? それに珠子の彼氏は研究者とも言っていたし、研究材料にされると思っていたの。
怯える私に近づいてきた二人は、一枚の紙を差し出してきたの。珠子がニコニコしながら声をかけてきた。
「婚姻届の保証人になってくれないかな? ほら、親には内緒だからさ」
「僕からもお願いします」
隣の宇宙人も頭を下げてお願いしてきたの。
「あ、はい」
私は何が何だかわからないまま、自分の名前を書いたの。書き終わると、目の前の二人は嬉しそうに抱き合って、円盤に乗り込んでいった。
「さようなら! 元気でね!」
知子は空飛ぶ円盤の窓から身を乗り出して、元気に手を振りながら地球を去って行ったわ。
辺りは何事もなかったかのように静かだった。珠子たちが去った後、家に帰るまで記憶も曖昧なの。ずっと夢を見ているんじゃないかと思っていた。
でも、あの出来事が夢じゃないとわかったのは次の日だった。朝のニュースは空に現れた、謎の光の特番ばかり。珠子も手紙を残して行方不明だって知らせも入ってきた。近所では珠子はUFOにさらわれたって噂も立った。まあ、それは事実だけど、真実を知っているのは私だけ。拉致されたんじゃなくて、お嫁に行ったのほうが正しいかな。どちらでもいいけど。彼女がこの地球からいなくなったのは変らないんだから。
彼女が地球を去って半年後、写真が送られてたの。珠子の結婚式の写真よ。彼女はとても幸せそうだった。うらやましいくらいにね。
あなたも珠子がうらやましいと思うかしら。
もし、あなたの周りにいい人が見つからなくて、遠距離恋愛でもいいというのなら、紹介してあげましょうか?
あなたに理解のある超ハイスペックな宇宙人はどう?
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