魚の呪い
君は呪われたことがあるかな?
僕はあるよ。というか今でも呪われ続けているよ。その呪いの話をしようか。
僕には釣りの趣味があってね。休日はいつも港に行って釣りに行っているよ。
動画がきっかけで始めたんだ。最初は動画のかわいい女の子目当てで見ていたけど、だんだん釣りの方に惹かれていってね。とうとう道具を買いそろえてしまったというわけさ。
僕はうきうきで港にいったよ。動画のような女の子に会えると期待していたからね。
でも残念ながらそんなのは幻想だったよ。おじさんしかいなかったよ。でも優しいおじさんばかりで、初心者の僕に竿の投げ方や針のつけ方を教えてくれたよ。
あるおじさんは「昨日釣ったアジだ」と言って、アジフライをくれたよ。僕はアジフライが嫌いでね。それはこっそり海に投げ捨てたよ。まき餌代わりさ。
で、何も釣れなかったね。まあ、初めてだしそんなもんかと思ったよ。
それから何度か挑戦したんだ。生き餌を使っても釣れなかったよ。プライドを捨てて、釣り堀でも釣れなかった時はへこんだね。専門の人にコツを聞いても効果はなかったよ。
僕に釣りの才能がないだけだと思う?
チッチッチ 違うんだよ。僕が魚を釣ることができないのには、理由があったのさ。
あれは、夜釣りしたときのことだったよ。何がなんでも釣りたい気持ちに駆られていた僕は、夜の港に出かけたのさ。
周りには誰もいなくて静かな海だったよ。僕はキャンプ椅子に座って夜釣りの動画を見ながら、糸を垂らして魚が釣れるのを待ったよ。懐中電灯の明かりに寄ってくる魚の影は見えるけど、全く針にかからないのさ。魚たちにはバレバレというように近くまで来たと思ったら、針のある場所を綺麗に避けるのさ。まるで魚たちが僕を馬鹿にしているように思えたね。
しばらく辛抱強く待っていたら、巨大な影が近づいてきたんだ。僕はドキドキしながら息を呑んだよ。もしかしたら釣れるかもと期待していたんだ。
でもその影は針のある場所を通り過ぎて僕の方に近づいてきたんだ。影がどんどん大きくなって、海面から背びれが見えてきたよ。魚の背びれだったね。でもシャチの背びれより大きいんだ。
その魚はゆっくりと傾きながら海面から顔を出したんだ。ぎょろりとしたとても大きな目が現れたよ。白く濁った目。魚の顔は腐ったような色をしていたよ。皮が破れて白い身が飛び出ているのさ。
魚のゾンビだ! 僕は信じられないと思って目を大きく見開いた。でもそれが間違いだったんだよ。巨大な魚は口から水鉄砲のように海水を勢いよく吐き出してきたんだ。僕の目に直撃したね。
しみる目をなんとかあけると、ぼやけた視界に大きな魚のシルエットがたくさん見えたよ。僕を囲んで巨大な魚たちが見下ろしていたんだ。
はじめに見た巨大な魚の他に、切り刻まれて血だらけの魚や、体が開かれたミイラの魚。そして海水でふやけた巨大なアジフライ。みんな生ゴミのような腐った臭いがして吐きそうになったね。
魚たちは僕にじわじわと近づいてくると、
「魚嫌いのくせに釣りをするな! 魚を食べるまで呪ってやる!」
低くてガラガラとした声で叫び始めたんだ。どろりと腐った身を僕に押しつけて、
「魚を食え、魚を食え」
としきりに呟いてくるんだ。
ぬるぬると柔らかすぎる感触が気持ち悪かったね。魚の強烈な匂いで僕まで腐っているんじゃないかと錯覚したよ。
鼻がまがるような匂いと、海水で痛む目。ヌメヌメの感触に囲まれながら魚たちの声を聞き続けていると、頭がおかしくなりようだったよ。
とにかく目が痛くてさ。キャンプ椅子に水のペットボトルを置いていたことを思い出して、洗い流そうと考えついたんだ。
すぐにペットボトルを掴むと、顔にぶっかけたよ。何度か目をパチパチしていると、目の痛みが消えていったんだ。
海水を洗い流して目を開けると、はっきりとした視界にはもう大きな魚の姿はなかったよ。でも僕の服や物にヘドロのような物がへばりついて、あの生ゴミのような匂いを放っていたんだ。さっきの魚のゾンビは夢じゃない。僕が魚を釣ることができないのは、あの魚たちの呪いのせいだとわかったんだ。
僕は子どもの頃から魚を食べるのが大嫌いでね。一口だって食べたくないんだ。今まで出された魚料理は一切手をつけずに捨ててきたよ。
寿司? あんなおぞましい料理は名前も聞きたくもないよ。
まったく、理不尽な呪いにかけられたよ。僕はただ、女の子に釣りを教えて仲良くしたいだけなのにさ。解くことのできない呪いをかけられて困り果てているのさ。
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