自分からの電話
君は自分の携帯電話を持っているかな? 僕の話を聞いているってことは持っているか。あはは。
たまに知らない番号からかかってくることがあるよね。ま、大体変な勧誘なんだけどさ。
知らない番号はまあ置いといてさ。気をつけてほしい番号があるんだ。ああ、死んだ人からの電話じゃないよ。それも気をつけてほしいけど、もっと危険な番号があるんだ。
一番よく知っている番号。自分の電話番号さ。電話に出るとすぐに自殺しちゃうんだってさ。
この噂は大学で聞いた話なんだ。僕の通っている大学にはオカルト研究会があってね、その中のひとりの部員が自殺したんだ。
遺書もなにもなく突然だよ。彼女もいて、家族関係も良好。部員の証言からいつも楽しそうに大学に通っていたそうなんだ。そんな彼が急に自殺するなんて妙だと思わない?
唯一の手がかりは、彼の携帯の履歴さ。彼が死ぬ直前に彼の携帯に彼の電話番号の履歴が残っていたのさ。
自分の電話に自分から電話がかかってくるなんて変だよね。詐欺のやり口で画面の表示を偽装して電話番号をすり替える技術はあるらしいけど、今回のケースでは、彼の電話番号そのものからかかってきていたんだ。
なぜ彼は自殺したのか。オカルト研究会は解明にいそしんでいたよ。そして、また別の部員が自殺したんだ。自分の電話に出た後にね。
一人目の自殺の時は誰も気にとめてはいなかったけど、短期間に二人目の自殺者がでたらもう大学中の噂になったね。いつのまにか近所にもその話は広がっていたよ。自分からの電話は呪いなんじゃないかって。出たら死ぬ。そんな噂が僕の地域で広がっていったね。
その後も自殺者は増えていったよ。オカルト研究会は全滅し、大学、近所と自殺者が増えていったんだ。みんな自分の電話に出た後にね。
一体電話でなにを聞いたか気になるだろう?
実は僕も自分から電話が来たよ。あまりにも周りで人が死んでいくから気になって電話に出たんだ。好奇心が抑えられなくてね。誰が電話に出たと思う?
そう、僕だよ。僕が電話にでたんだ。僕と同じ声で僕の名前を名乗るんだ。驚いたよ。この電話の先に僕がいる。その僕は別の世界の僕なんじゃないかと思ったね。
ほら、パラレルワールドとかよく言うじゃないか。電話の先の僕は嬉しそうな調子でしゃべり出したんだ。まるで、別の世界があることを知っているような口ぶりだったよ。で、自慢話をし始めたんだ。いかに自分がすごいか、成功体験を話すのさ。僕の行きたかった大学。すごくかわいい彼女。全部持っているんだよ。
電話先の僕は、僕が挑戦しなかったことを挑戦した僕。話を聞いていると、まるで今の僕が失敗した人生を歩んできたように感じたよ。電話先の成功した自分。この僕は失敗した自分。どんどん気分が落ち込んで、電話が切られた頃には死にたい気分になっていたね。
ちょうど僕は大学の四階にいたし、窓から飛び降りれば死ねるんじゃないかと思ったよ。
ぼんやりとスマホを握っていたせいか、うっかり履歴を押してしまったんだ。自分の携帯番号をね。
すると、コール音が鳴り始めたんだ。自分から自分に電話をかけているのにね。不思議な感覚だったよ。
しばらくコール音が続いたあと、電話が繋がったんだ。また別の世界の僕と繋がったのか? そう思って僕は僕に話しかけたよ。
でも声の調子が少し違った。さっきの僕とは違って自信がないような声だったんだ。それに僕から電話が繋がっていることに驚いている様子なのさ。
もしかしてと思って、僕は自分の人生を自慢したんだ。電話越しの僕はすごいすごいと言うばかり。思ったとおり、この二人目の僕は僕より上手くいっていない世界線だったみたいなんだ。
僕より失敗した僕がいる。そう思ったら何だが自信がついてきて、自殺する気がなくなったんだ。それで僕は自殺をせずにすんだのさ。
あんまり怖くなかったかな?
ま、怪しい電話には出ないことだね。
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