電気店のオヤジ(2)

 それから数日後、ビトルンが店に来た。

 「元県議会議員の桑野正三を処刑しました」

 「いきなり何だ。そんな事を俺に知らせてどうするんだ」

 唐突に切り出したビトルンに岸島は話半分に聞きながら店の掃除をした。

 「汚職に気付いたあなたの父親を母親と共に事故に見せかけて秘書に殺させた罪です」

 岸島のモップを拭く手が止まった。

 「おい、何を言っているんだ。あれは事故……事故じゃなかったのか!」

 ビトルンが言っている意味を理解して岸島は愕然とした。

 「そんな……警察は事故だって言っていたぞ。えっ……まさか警察も……」

 岸島の頭に悪い考えが浮かんだ。岸島は首を振って気を落ち着けた。

 「どうして今になってわかったんだ」

 「桑野の件は以前から捜査していました。秘書を取り調べた結果、殺人を自供しました。秘書も処刑済みです。遺品を調べたいので準備しておいて下さい。それでは」

 ビトルンは一方的に話して店を出て行った。

 「殺されたなんて……どうして……」

 岸島はその場にうずくまった。

 翌日、ビトルンが数人訪ねて来た。家宅捜索をしたいとの事だった。

 岸島は「ああ、好きにしてくれ」と答えて様子を見ていた。

 (腕が四本あると探し物をするのに便利なんだな)

 親が殺されたのを知ってショックだったからか手際良く調べるビトルン達を見てまるで他人事のように思った。それ以外の事は何も思わなかった。

 カブトムシの様な姿をした人造人間が家の中をうろうろしている光景は異様だったが岸島は居間の片隅に黙って座っていた。

 ビトルン達は二時間程で捜索を終え、パソコンやスマホなど段ボール箱五個分の品物を押収して帰った。

 それを見届けた岸島は近所の喫茶店へ出かけた。

 「大変だったな」

 店長が皿を拭きながら言った。

 「ああ、片っ端から探して帰ったよ。親の遺品だけじゃなかったようだ」

 岸島は「疲れた」と椅子に座ってぐったりした。

 「お前、ヤバい事をやったのか」

 「俺が何かやらかしたならとっくに殺されているさ。桑野の事件の手がかりを探しているのだろう」

 岸島はうつむいてコーヒーを飲んだ。

 「しかしお前の親が殺されたなんてな。うちの店にもいつも来てくれていたからショックだよ」

 「俺もまいっているよ。十年以上昔の事とはいえ殺されていたとは……」

 岸島はため息をついてコーヒーカップを置いた。

 翌日からビトルンが商店街の住民に桑野の件について聞き込みを始めた。

 商店街は不穏な雰囲気に包まれた。

 数日後、押収された品物が岸島に返され同時にビトルンから退去命令を通告された。

 「おい、退去ってどういう事だ。おかしいじゃないか」

 岸島はビトルンに怒鳴った。

 「二週間以内に指定された地域に転居して下さい。転居先は手配済です。転居後に市役所で手続きをすると補償金が振り込まれます」

 「いや、手続きの話じゃなくて理由だよ。俺が何かやったのか」

 「地域の治安維持の為です。尚、予定を過ぎても転居しなかった場合は違法行為として処刑します」

 「それで殺すのか。わかったよ。お前に文句を言っても仕方ないのはわかっているが全然納得していないからな」

 岸島がため息をついて答えるとビトルンは「それでは」と店を出た。

 それから岸島は店を閉めて引っ越しの作業を始めた。

 引っ越しの前日、喫茶店で岸島の送別会が開かれた。

 岸島にビトルンから退去命令を出されたのが噂になっていたので関わりたくないと思ったのか参加したのは岸島と店長を含めて四人だけだった。

 「いきなりでびっくりしたが元気でな」「何があったか知らんが体に気をつけろよ」

 両親の友人に励まされた岸島は「ありがとう」と言って地味な送別会は終わった。

 帰宅して空っぽになった店を眺めた岸島はため息をついて、

 「何で引っ越さないといけないんだ。化け物共が」

と何度言ったかわからない愚痴をまた呟いて自室に入った。

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