第30話

ただの観戦客と化した僕は雨音さんと柚希さんが出ている選抜リレーを見ていた。クラスの足が早い男子4人、女子4人の計8人で構成されたチームのリレーだ。


「夏奈先輩の2回戦も見たいんですけど、雨音さんはクラスメイトで友達なのでこっちを優先させてもらいますね」


「うん、別にそれは構わないけど私たちのことも応援しておいてね!」


「それはもちろんです」


そうして夏奈お姉ちゃん達は再び体育館に戻って行ったので僕は雨音さん達のリレーに集中する。


本当ならクラスのテントで近いところから見たいところだが正直本部からテントまで自分の足で移動できる気がしない。体育祭は2日あるし明日の競技には出れると信じたい。



§§§



「いやぁ、ウチも結構速さには自信があったんだけど、軽々抜かされたね。もしかして陸上部の子かい?」


「あはは、褒めてくれてありがとうございます。そちらこそ速かったですよ、私が見た女子の中ではいちばん早いです」


さてと、ウチは走り終わったことだし仲間を精一杯応援しよう。今のところは3位だけど、ぐんぐんと差は縮まっていって2位まで浮上した。


「柚希、ウチたちのクラスが勝っちゃうかもね」


「それは無理だな、だって俺らのクラスのアンカーは……サッカーU-15日本代表の奴だからな。この体育祭に来てること自体が珍しいくらいだ」


この学校にそんなすごい人がいるとは知らなかった。確かに相当な差をつけていないと勝てる要素がない。


そのまま柚希のクラスが1位、ウチ達のクラスが2位で選抜リレーが終わり、全員がテントに戻る中、ウチだけは雪を体育館に連れていった、もちろんおんぶで。


「何回もすいませんと言いたいところですが、移動までおんぶで行く必要はなかったでしょう?」


「怪我人だからね、無理させるわけにはいかないよ。大丈夫だって、ウチが雪をおんぶしていても誰も変だと思わないからさ、主に体格的に」


雪って結構童顔だし身長も小さくてもはや女の子より女の子してるので傍から見たらウチが小さい女の子をおんぶしてるような図だろう。


夏奈先輩のバスケ3回戦、相手は……副会長がいるね。


「この場合はどっちを応援すればいいんでしょう……。夏奈先輩か副会長、どっちとも勝って欲しいんですけどね」


「2人とも応援したらいいよ、ウチがおんぶするから2人に手でも振ればそれだけで応援完了だよ」


あの先輩たちにとって雪は弟のような存在だと思うし手を振って貰えただけでもやる気は出るだろう。ウチも正直おんぶしてる雪が弟みたいでそんな気持ちに至っている。


試合の状況としては互角で1回戦の時と同じように入れては入れられての繰り返しだが夏奈先輩がバスケに慣れてきたのか分からないが積極的にシュートを打つようになった。


「……何をしてるんだお前は」


「何って……雪に試合を見せるためにウチがおんぶしてるんだよ。そうじゃないと雪は他の人に埋もれて試合が見れないからね」


「いや雨音がいいならそれでいい。おんぶしてるのが雪でよかったな、俺だったら色々大問題だぞ」


「柚希はおんぶしないよ、重い」


「おいこら」


これでもウチは女の子なんだから、柚希みたいなガッチリした男の子をおんぶできるわけが無い。これは雪が小柄で軽いからできているだけである。


夏奈先輩から作ってもらってるからご飯を食べてないということはないんだろうけど、心配になるくらいには雪は軽い。


「雪、人が少なくなってきたからもう降りても見えるんじゃないかい?」


「あ、確かにそうですね。ありがとうございました雨音さん」


ウチは雪を下ろしてフェンスに腕を掛けて試合を見る。雪くんはまだ足が痛いのか座ってフェンスの隙間から試合を見ている。


「今のところ副会長のクラスがリードしていますね。今日はこのバスケと今外でやっている2年生のサッカーが終われば帰宅なので盛り上がってるんでしょうか?」


「そうなんじゃない?」


確かに下の方からすごい男子たちの歓声が聞こえてくるが、恐らく学年一の美少女と名高い夏奈先輩がバスケをしているからだろう。あの発育のいい体でジャンプを何回もしているんだ、そりゃあ男子の目も引くだろう。


ウチに例のブツはないがその方が色々やりやすいこともあるのでメリットでもありデメリットでもあるだろう。


「雨音さん、この勝負はどっちが勝つと思いますか?」


「このまま行けば副会長のクラスが勝つと思うけど、勝負っていうのは最後までどっちが勝つか分からないからね。それに点差は4点だし、まだまだ逆転は有り得るね」


「あぁ、試合が終わるまで安心なんてない。逆転される可能性は十分にあるからな、副会長のチームはもうちょっと点差を広げたいところだな」


そしてボールを手にした夏奈先輩がシュートを打ってそのリバウンドボールを別の人が決めて点差は2点、本当にどちらが勝つかまだ分からない。


点差が2点差となったところで前半の終了を知らせるホイッスルが体育館に鳴り響いた。


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シェアハウスに住むことにしたけど同居人が学校1の美少女先輩なんて聞いてない 桜木紡 @pokk7

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