第26話
「おーい西園くん」
「……」
何度声をかけても雪は返事をしない、何かに集中してしまったらそれ以外のことは頭に入らなくなるのが雪という人間だ。
「雪は1度集中し始めちゃったら終わるまでこの状態になっちゃうんだよね。あなたは雪をそっとしておいてあげて、大丈夫だよ失敗はしないと思うから」
「副会長がそう言うのならそうします。1番西園くんのことを理解してるのは副会長ですから」
うーん、やっぱり普通に過ごしていてもあたしが姉だってことはバレちゃうのかな。まだ入学してまもない上に生徒会に入ってすぐなのに
まぁそれに関しては雪も諦めてるみたいだし、学校でお姉ちゃんと呼ぶことは無くても否定はしないと思う。
「副会長は……西園くんをどう思ってます?」
「どう思ってるって愚問じゃない? 家族で、あたしの大切な義弟だよ。あの人たちから何としてでもあたしが守ってあげないといけない、それは親を敵に回すことなんだけどね」
今は親が海外にいるから何も問題は無いが、雪は追い出された側であたしが雪側についてることがバレたらあたしも追い出される可能性もあるかもしれない。あたしとしてもあの親たちは好ましくないし、例え追い出される可能性があったとしてもあたしは雪の味方でありたい。
今でもあの時に証拠を取れなかったことを悔やんでいる。あたしが証拠を取ってさえいれば今後あの人たちが帰ってきた時に苦労することは無くなったのに。
「そうですね、失礼しました」
そう言ってその人は作業を再開した、あたしは別にずっとここで作業を見ている必要は無いんだけど、ずっと雪を見ていた。途中呼ばれたりもしたけど雪を見ていたいからと言って断った。
本来ならそんな理由で断ることなんて出来ないと思う。だけどあたしが雪の義姉で数ヶ月離れていたことを知っている人達はそれ以上何も言わずに去っていった。
「副会長、西園くんは義理の弟で大切だということは分かります。でも、公私混同を良くないんじゃないですか? 自分が言うのもなんですが、今の西園くんは副会長が知っている西園くんとは違う」
「あたしが知ってるのは……」
か弱くて、義姉であるあたしと喋ることですら一回しかない雪、でも今は友達を作って、生徒会にも入ってしっかりとした自分を持っている。昔みたいにあたしが過保護になりすぎ必要なんてなくて、それが雪に取って迷惑なのかもしれない。
「副会長、西園くんはもう大人なんですから。いつまでも昔の西園くんと照らし合わせるのはやめた方がいいですよ」
「あたしは、どうするのが正解なの……?」
「それを自分で考えて行動に起こすのが正解だよ」
「僕は今のままでいいですよ」
唐突に作業に集中していた雪が口を開いた。
「結衣お姉ちゃんは過保護なままでいいんです。僕の味方で居てくれるんですよね? なら今のままで変わらず、僕のお姉ちゃんでいてください」
「あたしなんかがお姉ちゃんでいいの?」
「何を言ってるんですか、結衣お姉ちゃんだからいいですよ。今日の夜、僕について来てください、全てのことに終止符を打ちます」
雪は作業が終わったのか、家庭科室からあたしたちを残して出ていった。
「良かったね、副会長」
その言葉を聞いて、あたしは雪の後ろを追いかけた。
§§§
そのまま今日の作業は終わって、雪と一緒にあたしは歩いていた。
「僕が今から何をしようとしているか分からないでしょうけど、とりあえず着いてきてください」
何をするかは分からないけどどこに向かって歩いてるのかだけはわかる。
「あそこで何をするつもりなの?」
「さっきも言いましたよ、全てのことに終止符を打ちに行くんです。そのせいで結衣お姉ちゃんが苦労してしまうかもしれませんが、今後の平穏のためです」
雪くんは1人で警察署の中に入って行って、なにやら警察と話をしている。外で待っていて欲しいと言われたので話の内容は聞こえてこない。
「子どもが証拠を持って親を通報しに来るなんて珍しいこともあるんだね。君の事情はわかった、あとは大人の仕事だ。それでなんだけど、証拠としてスマホ預からせて貰えないかな? 職業柄データで送ってもらうことを避けないといけないんだ」
「あの人たちが捕まるのなら僕のスマホぐらい何日でも預けますよ」
しばらくして雪が戻ってきて、「ごめんなさい、だけどこれで全て終わりです」と言った。
「どういうこと?」
「僕は今、あの人たちを通報しました。証拠もバッチリ渡したのでいずれあの人たちは捕まるでしょう。でも、そうなった場合に結衣お姉ちゃんが苦労してしまうのは許してください」
あの人たちがいなくなったらお金を稼ぐことも出来ないしいずれ生活が出来なくなってしまう。だけど、私はもう高校生だからバイトでもすればなんとかなる。
「大丈夫、あたしは1人でも生活できるかは。だから雪は何も心配しなくてもいいよ」
「そうですね、僕ができてるんですからお姉ちゃんである結衣お姉ちゃんもできますよね」
「雪は一人暮らしじゃないでしょ?」
そしてあたしたちはそれぞれ別の道へ歩んで、それぞれの家へ帰った。
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