第25話
例の市民ホールにやってくると、入口のところにずっと前から使い回しをしてるのだろう、少し古びた装飾がダンボールに詰めてあった。中身を見てれば高いところにつけるものばかりで、僕が手伝えそうなものはなかった。
「雪は高いところ届かないからこのライトをお願いするね。色がいっぱいあるけどどう並べるかは雪が決めていいよ」
「雨音さーん、僕だけじゃこの箱をは運べないので手伝ってくれますか?」
「雪はやっぱり非力なんだね、まぁ見た目通りか。じゃあこのライト達はウチたちが並べていくとしよう」
「バカにしないでください」
生徒会に入ってからなにかの手伝いをすることが多くなったが誰かと一緒に同じ作業をするということが僕にとっては楽しい。雨音さんが僕と一緒に生徒会へ入ってくれたこともあるかもしれないが何よりみんなが優しいから僕はあの時みたいに怯えることなく過ごせている。
「怒ってても雪は可愛いから怖いと感じないね。とりあえずこのライトを並べていこうか、数に偏りがあるけど」
「もう可愛いと言われても何も思わなくなった自分が怖いです……。それで、明らかに青色が多いですね」
別に全て置けと言われてるわけじゃないので変に全て使って変な感じになるくらいなら圧倒的に数がある青色だけを並べているだけの方がマシだ。とりあえず青色のライトだけを並べて隙間を2番目に多い赤色で埋めた。
「これ以外の組み合わせをしようとすると数が足りないからね。ウチはもっと彩りたいけど数が足りないから仕方ないかな」
「これでいいんじゃないですか? 正直会長や副会長達がやってる飾り付けの方がメインだと思いますし」
「ウチたちも参加するパーティーの準備なんだからもうちょっとこだわりたいんだけどねー」
僕はこのような人が集まるパーティーには行きたくない。知らない人だらけで、中にはあの人のような生徒もいるかもしれない、それに僕は……楽しいパーティーの場に相応しくない。
”楽しい”という感情をまだ理解出来ずにいる。どこまでが自分の感情で、どこからが周りに流されてできた感情なのか、僕は判別できない。今だって、周りが楽しそうだから僕もそう思っているのか、素直に自分が楽しいと思っているのかが分からない。
それに僕の周りは有名人ばかり。生徒会長の結衣お姉ちゃん、学年一の美少女という噂がある夏奈お姉ちゃんや入試1位の雨音さん。
そんな有名人ばかりの中に平凡な僕が入って場違いだと思われないだろうか。
「僕は……」
「参加しないとは言わないでね、前とは違って雪には友達がいるんだから。ウチたちの中で浮いてしまうなんて考えてるのなら安心して欲しい、ただそんなことを言ってくる人なんて無視すればいいだけだよ。それでも行きたくないと言うのなら雪と友達の先輩たちも全員を集めるつもりだよ、ウチは」
そこまでする気なら僕は行きたくないなんて言えないじゃないか……。全員でいれば、なんとかなるのかなぁ?
「どっちにしろ雪は、夏奈先輩に連れていかれるだろ?」
「はぁ……確かにそうですね。行くには行きますけど、知らない間に帰ってるかもしれませんよ?」
「なら帰れないように手でも握っておくことにしよう」
そんなこんなでライトの設置は終わったが他のところはまだまだ終わっていなかった。でも僕の身長では手伝うことは出来ないので知り合いに飲み物を渡すくらいのことしか出来なかった。
あとはただ、会長や副会長が飾り付けをしているところを眺めているだけで一旦休憩となった。
「とりあえず一旦休憩だからみんな昼ごはん食べてねー!」
「そういえば雪ってここに来た時になんの荷物も持ってきてなかったはずだよね? もしかして弁当がないということはあるかい?」
そういえば朝ごはんを自分で作って食べた時に雨音さんが来たから何も持っていかずに来たんだった……。学校周りのコンビニ買いに行こうにもお金すら持ってきていない、唯一あるのはスマホのみ。
「あたしの弁当分けてあげるからさ。明日はちゃんと事前に買ってくるか持ってくるんだよ?」
「ありがとうございます。自分は別に何も食べなくてもいいんですけどね」
「それは体に悪いからちゃんと食べてね。あたしの分の心配をしてるなら大丈夫だよ、重労働になると思って結構多めに持ってきてあるから」
副会長の弁当を分けてもらって食べたあと、1回学校に戻って体育祭実行委員と文化祭実行委員が全員いるかを確認して、文化祭実行委員が買ってきたものを確認した。
そして次は飾り付けと人と、文化祭の道具を作る係に別れて作業を始めた。
「もしかして1から衣装を作るんですか?」
「うん、そっちの方が文化祭感が出ていいからね。ねぇ、君は裁縫は得意? 得意だったら手伝って欲しいんだけど、どうかな?」
「デザイン的にメイド服ですよね? ん、多分出来ると思います。でも裁縫道具持ってないです」
「それはもちろん貸してあげるからさ」
裁縫なんて久しぶりにやるが、まぁあの人たちに無理やりさせられたんだ、いやでも覚えているだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます