第23話

「よぉ、クソガキ」


とある事件を起こして連れてこられた場所にいた赤髪の警察官が放った一言目はそれだった。


「クソガキなのは奴らの方だ」


「そうかもしれねぇが、手を出した以上はお前の方が悪い。お前に奴らがどんなことをしたかは聞いているが、結局は手を出したら負けなのがこの世界だ」


女性にしては口が悪く男らしい印象を与えるこの女性警官、ただの事情聴取ならこの人じゃなくても良かっただろう。わざわざこの人を選んだ理由が何かあるのだろうか。


「そうだクソガキ、停学期間中は何も出来なくて暇だろ。私の所に来い、今後迫り来るかもしれない危機に対応する術を教えてやるよ。お前は才能があるからな」


正直反抗したかったが、直感でこの人には反抗しては行けないと脳が訴えてきたので仕方なくいくとそこは何も置かれてないただの部屋だった。


「じゃあクソガキ、行くぞ?」


次の瞬間には僕の体は既に宙を舞っていて、地面に叩きつけられた。


「いきなり何するんだ。そっちがその気なら僕もやるぞ?」


「元からやってもらうつもりだ、そうだな停学期間中に私に1発入れられるくらいにはなってもらうか」


倒すならまだしも1発入れるくらいならこの人がどれだけすごくても余裕だと思った、だけど間違いだった。僕の拳は全て避けられカウンターが帰ってくる、それにそのカウンター一つ一つが人の意識を断てる代物だ。


こんなものをモロに貰ったら病院行きになりそうなので僕は冷静に避けようとするが腕で体を守るので精一杯だ。


「さすが私が見込んだだけのことはある、これだけ私のパンチを受けて倒れてないやつはお前が初めてだよ。学校を卒業したら警察官や自衛官になってみるのはどうだ? それがお前の才能を活かせる仕事だ」


「また守りたい人が出来たらそうするさ! 僕が心の底から守りたかった人は既に手遅れだった!」


今はそう思える人がいないとしても今後できた時に、この警察官に訓練してもらったおかげでその大切な人を守れるのなら僕はこの状況を受け入れよう。


父さんは守れなかったが、今後僕がそう思える人ができた時にこの経験は役に立つだろう。


「そうかい、なら二度と同じ過ちを犯さないように強くなるんだな。停学期間中に私がお前を強くしてやる、体も、心もな」


「そうかい、でも話をするなんて油断しすぎじゃないか?」


そう言って放った僕の拳は初めて空を切ることはなかったが、警官の手に受け止められた。


「油断なんてしちゃいないさ、とりあえず1ヶ月間、お前は私が観察する。寝泊まりは……そうだな私の部屋に来い」


「はぁ、拒否権はないんだろ? それにこちらにもメリットが少なからずあるし、停学中は暇だからな」


それからの日々は変わらなかった、名前も知らない警官の家で起きていつもように訓練をする。殴られて、床に投げ飛ばされて、いつの間にか痛いと感じていたパンチも痛いと感じなくなってきた。


1週間が経つ頃には殴られることはあっても投げ飛ばされることはなくなったしあの人のパンチもだいぶ受け止めれるようになってきた。


「並の新人警官より、お前の方が優秀だな。まぁお前は犯人とやり合うことしか出来ないがそれでいい、他の誰かより圧倒的なものがひとつあるならそれで戦えばいい」


「僕が警察になる前提で話を進めるな。僕はただ、誰かを守れる技術を得るためにここに居るだけだ、スカウトするなら他を当たってくれ」


少なくとも警察官になる考えは無い。いつか考えが変わる日が来るかもしれないが、今は普通に生きていくだけでいい。


「まぁお前のその視力、感覚は色んなところでも生かせるからな。別に警察官じゃなくとも問題は無い、ただ1番生かせるのが警察官ってだけだ。もし考えが変わったら私に連絡しな、すぐ採用してやるよ」


まぁ学校を卒業して就職に失敗した時の保険として考えておこう。高校になったら何も問題を起こさず平穏に過ごしていくつもりだし、例え馬鹿にされたとしても無視しておくことにしよう。


強者は弱者を守るために存在し、弱者を支配するための存在では無い。制裁を加える相手を間違えるな、誰かを守りたいと思うのなら相手に手を出すな、向こうが諦めるまで手を出すな。手を出していいのは命の危機がある時のみだ。


訓練が始まる時に毎日言われたことをふと思い出す。命の危機に陥る日なんて来るのだろうか、いや警察官なんだから事件の対処で命の危機に陥ったことくらいあるか。


「警官は市民の平和を守るために存在してるんだ。罪を犯したやつも市民と言えば市民だ、その命だけは保証してやらないといけないだろ? そうじゃなかったらお前は捕らえに来た警察にやられてるだろうな」


「ずっとあなたにやられてるが?」


「お前となら訓練ということで片付けられるさ。私とやり合ううちにお前の痛覚は麻痺したようだかな」


最初は吐くかと思っていたパンチも大体は受けられるようになったし当たってもほんの少し動きが止まるだけだ。


「ほら今日は終わりだ」



§§§



そして停学期間が終わり僕は学校に戻ったが、前よりも僕をバカにしてくる奴は減った気がする。それでもバカにしてくるやつは一定数いるが、そんなことはどうでもいい。


「手を出して悪かったな」と彼に一言告げて僕は教室の中に入った。



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