第22話
午前は最初にやってきた霧香さん? 以外にお客さんは来なかったが午後からは学生や会社員の人がやってきた。午前とは違って私も注文を聞きに行く必要が出てきた。
「ここは大学と会社から近いところにあるからね、午後になると昼休憩がてら来る人が多いんだよ。だから午前より結構大変だと思うけど頑張ってね」
「慣れてることだし僕がホールで働くことにするかな。2人は奥に居ていいよ、夏奈達は慣れてないと思うからさ」
「じゃあ経験者の和田くん、ホールの仕事は任せた!」
和田くんのバイト先も喫茶店だったらしいので私たちみたいにどうすればいいか聞くことはなく、やるべき事を理解して本当にここでバイトをしているかのようだった。
§§§
「いつまで席の端で僕たちを眺めておくつもりですか。そのカードがなかったら職場体験の高校生を眺めている変人ですよ?」
「先生に言うような事じゃないだろ、それ。一応ちゃんと体験をしているかを見ておく必要があるんだ、これは仕事だよ仕事」
入口からは職員だということを示すそのカードは見えないし、もしこの先生が嫌われていてとしたら女子たちに陥れらる可能性もあると思う。僕は中学の時に、女子にダル絡みしてる先生がそれで退職処分となったのを目の当たりにしている。
まぁ橘高校の先生は全員まともで、少し面白い人がいるという恵まれた高校なので余程のことがない限り嫌われる先生は出てこない。
「仕事ならちゃっかりコーヒーとサンドイッチを頼んで寛いでるのはどうなんですか」
「教職はブラック労働だからな、休憩は取れる時に取るべきだ」
教職は労働代が出ないし、生徒の提出物を確認したり普通の仕事よりやることが多いので先生の気持ちも分かる。正直、先生が全く見ていないわけじゃないし上に報告する気なんて全くない。
他のお客さんもいるのでこれ以上先生と話している時間はない、とりあえずベルが鳴る方へ向かった。
「ご注文は?」
「いつもの」
「ご注文は?」
「いつものだよ!」
この男は周りが見えていないらしい。
周りが勉強などの作業をしているのに声を荒らげたり、僕のプレートに付いている職場体験中という文字も見えないなんて。
いやそもそも、ここにはこんなお客さんは来ないんだったか。だとしたらこの人はただストレス発散のために店員に八つ当たりしに来ただけの人か?
「当店にいつものというメニューはございません」
「お前みたいなバイトじゃ話にならん、店長を呼んでこい」
「お客様はいつも来てるんですよね?」
「そうだと言ってるだろ」
職場体験の内容の中にクレーマー対応なんてないが偶然クレーマーに遭遇したのがバイト先でクレーマー対応をメインに行っていた僕でよかった。
「おかしいですね、いつも来ているのならここにバイトは1人もいなくて、店長が夕方にしか帰ってこないことを知ってると思うのですが。あと、周りをちゃんと見た方がいいですね、僕のプレートが見えますか? 職場体験中と書いてるでしょう、あそこに先生もいますからね」
僕がそういえばその男の人は顔を真っ赤にしながら店を出ていった。恨むならちょうど注文を聞きに来たのが僕だった運のなさを恨むことだ。
恐らく僕以外ならこのままストレス発散として良いように使われていただろう。まぁそういうことを見込んで2人に店の奥でする仕事を任せたのだが。
「マスター、何となくでやって見ましたけどあんな感じで良かったですか? あとこのことは2人に伝えないでください、色々心配されてしまうので」
「助かったわぁ、じゃあ2人にはちゃんと秘密にしておくわね」
僕は心配されることが好きでは無い。例えるなら殴られたとして心配されても、僕は殴り返していると思うのでそっちの方を心配して欲しい。一般人とある人からの手解きを受けたパンチじゃ全然違うのだから。
元は中学の時にとある事件を起こした時のことを思い出した。今となっては過去の話だがあの時は本当にキツかった。
手を出した僕も悪かったと思うさ、でも父さんを馬鹿にされて平然といられる僕じゃなかったと言うだけ話だ。
§§§
それからしばらくして私たちの職場体験が終わり、帰りに持ち帰り用のクッキーをもらってバスに乗り込んだ。もらったクッキーのバターの匂いをバス内に充満させてしまっているのは申し訳ないと思う。
「和田くんも疲れて寝ちゃったか」
和田くんは、隣にいた人が居なくなったのでそっちに移動してその席で眠っている。その奥にはちゃんと人が座っているのでちゃんと私たちがいる方にもたれていた。
「まぁ今日1番働いたのは和田くんだと思うしね、寝かせておこうよ」
万が一私たちも寝てしまったらあれなので和田くんの隣にいる人に、私たち3人が全員寝ていたら起こして欲しいと頼んでおいた。
今日の職場体験は楽しかった、バイトをすることになったら喫茶店で働こうかなと思う。賄いも渡してくれたし、小雀喫茶店のマスターは本当にいい人だった。
できるなら客として来てみたいが隣県なのでそれはまた考えることにしよう。
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