第21話

目的地に着いて、それから自然に決めておいた自由班でそれぞれ行きたい職場を回っていくことになっている。ほとんどの人は賄いが貰える可能性にかけて飲食店やコンビニなどに行っている、私たちも飲食店に行くつもりだ。


私たちのクラスの選択肢はコンビニ、県立図書館、小雀喫茶店、若葉幼稚園、県立体育館、老人ホームの6つだ。


職場体験なんてわざわざ遠いところに行かなくていいと思うけど、せっかくなら普段行かない場所の方がいいということらしく朝早くから移動して大阪から兵庫までやってきた。


「3人班で女子2人で僕だけが男子だと少し居心地が悪いな。周りの目も少しばかりこちらに向いている、それは夏奈のせいだと思うが」


「別にいつものことでしょ? というか和田くんはそういうのを気にする人じゃないでしょ。じゃなかったら普段から私たちの中に入らないし」


「そんなマジレスしないでおくれよ、僕は冗談を言っただけなんだからさ。とりあえず時間は限られてるんだからとりあえず目的地の小雀喫茶店こがらきっさてんに向かおう」


スマホで小雀喫茶店までの道を確認しながら知らないこの地を歩いていく。兵庫は隣だけど大阪とはどこか似て非なるものがある。兵庫に来たのでせっかくならいるご飯は中華街のどこかで食べたかったがほとんどの人がそう考えて中華街に向かう可能性があり我が校の生徒で店を埋めてはいけないと言うことで全員弁当だ。


しばらく歩いて小雀喫茶という看板を見つけたので中に入ると先生と恐らく仕事を教えてくれる人がいた。ここの小雀喫茶店はまだ小さい方でこの案内の人だけで店を回しているらしい、確かに座れる場所は全て1人用の席で一気に大人数は入らない。


「いらっしゃい、橘高校の生徒さん。早速だけどまずはこのお店の制服に着替えてもらうから店の奥に案内するわね」


「はい!」


店の奥にまずは女子が入って着替えた後に和田くんが入って着替えて出てきた。


「うんうん、似合ってるよ。それでこの職場体験中の名札を付けて仕事をしてね、そうじゃないとクレームをつけられるかもだからね。今までそんな人は来たことないし、そもそもそんな人はお客さんじゃないから」


そこから簡単な仕事、例えばカップや皿を洗う人と注文を聞きに行ってくる人などに別れた。和田くんは皿洗いを未来とすることにして私は注文を聞きに行くことになった。


和田くんはバイト経験があるし、クレームが来てもその対応には慣れていると思うけど私は……あんまり対応出来る自信が無い。そんな人は来ないらしいけど絶対という訳では無いのでいつでも身構えておかないと。


「いらっしゃいませー、ご注文がお決まりでしたら各テーブルにお備え付けのベルでお呼びください」


「あれ、初めて見る顔……あぁ職場体験の人なんだ。マスター、いつも通りでお願いします」


「いらっしゃい霧香ちゃん。今日は職場体験の子が来てるからいつもより仕事が楽に進むかしらね」


「さすがにバイトを雇った方がいいんじゃないですか? 小さいお店だとはいえマスターと彼氏さんで回すには結構な労働ですよね」


話によればここのお店はマスターの彼氏さんが譲り受けたお店らしく、その彼氏さんが居ない昼の間はマスターが店を回して夕方になると2人で回すらしい。


「いいのよ、これは彼が望んだことなんだから。高校の時から喫茶店を開くのが夢で、私に一緒にやろうと誘ってくれたからね」


「まぁマスターがそれでいいなら私は何も言いませんよ。それと今日もここで作業させてもらいますね」


「大学のレポート頑張ってねー」


この人はいつも通りで通じている辺り常連だと思うので私が注文を聞く必要がなくなり今のところただ店内を見回しているだけである。


「あ、ここにはほとんど常連さんしか来ないから注文を聞きに行く場面は多分ないわね。奥のお友達とは違う仕事をお願いできる? 機械に豆を入れるだけだから簡単だと思うよ」


「わかりました」


奥に戻ってコーヒーメーカーの隣に置いてある大きな袋、恐らくこれにコーヒー豆が入っているのだろう。早く入れたいところだけど結構この袋が重たい、近くに入れるためのスプーンのようなものもないしどうすればいいかな。


「夏奈、僕と皿洗いを代わってもらえるかい? この袋を持ち上げるのがきつそうだし、僕はこういうことに慣れている」


「じゃあお願いね、和田くん」


それから店内のマスターとお客さんの会話を耳にしながら皿洗いを続けて数十分、シンクに置いてあったお皿を全て洗い終わった。そして和田くんはここで本当にバイトをしているかのように動いていた。


注文されたものを運んだり、使い方を教えてもらいながらコーヒーを淹れたりもしていた。


そして昼になり、私たちは休憩を貰い昼ごはんを食べることにした。


「はい、午前中働いてくれた賄い。弁当を持ってくることは聞いてたからクッキーにしたからね。午後の仕事が終わったら持ち帰る用に何か作ってあげるわな」


「「「ありがとうございます」」」


3人分のクッキーを受け取って、弁当を食べた後にデザートして食べて、午後からの体験を始めた。

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