第19話

「ほんとに?」


「ほんとですよ、というかなんで僕はこんなに疑われてるんですか」


「雪はこんな見た目とはいえ一応れっきとした男の子だからねぇ。ウチたち女子からしたら女子と男子が同居してるという自体は見過ごせないものだよ。で、本当は何かあるんじゃないのかい?」


風呂から上がってきたところを偶然見てしまったとかは無いのだが相部屋ということで僕が先に起きた時に無防備な姿で寝ている夏奈お姉ちゃんを見ることはある。僕が男の子だと認識されていないのか分からないが1つ屋根の下に男の子と暮らしているということを自覚して欲しいところだ。


僕は何もする気は無いというか体格的に出来ないので良かったが、同居してるのが僕じゃなくてほかの男子だったらどうするつもりだったのだろう。


「まぁ雪がそんなことできるとは思わないし大丈夫かな。その先輩は絶対に雪よりは力が強いだろうからね」


「確かに僕に人を押し倒せるような力はありませんね。ということで僕は何も出来ないので安心できますよ?」


僕から何も出来なくても向こうから何かしてきた場合はどうしようもない。


というかここで長々とこんな話をしてる場合じゃない、チャイムはまだなっていないが次の授業の準備は出来てないし1年生の教室はこの生徒会室からは遠い。とりあえず雨音さんの手を引っ張って教室に戻った。


「私もそろそろ戻ろうかな、会長というか3年生は授業は大学と同じで自分で入れるんだったね。会長は授業よりここでずっと1人勉強してそうだけど」


「その通りですけど、その言い方じゃ私に友達が居ないみたいな言い方ですよね?」


「実際居ないじゃないですか、



※※※



「夏奈が考え事なんて珍しいな」


そう和田くんが声をかけて来るがなんで私が考え事をしていることがわかるのだろう。


「そうそう、雪くんが前の試験で1位だったんだけど私の順位と差が開きすぎてて恥ずかしいというか」


「人はそれぞれなんだから夏奈は今のままでいいじゃないか、無理に努力して西園に追いつく必要も無い。別に西園が1位で夏奈が103位だったか? その事に口出しするやつなんていないさ」


そもそも私が雪くんとシェアハウスしていることを知ってる人なんてほとんどいないし1年生と2年生を比べるのもおかしい話だと思う。まぁそれで言ったら今回和田くんに負けちゃったんだけど。やっぱり勉強出来てないからあの点数なだけで勉強したらしっかりと高順位だった。


「そういえば今回は勉強する時間を作ったんだね」


「いや、部署が近いところになったらしいから僕はバイトを辞めたさ。今までの分を取り返す勢いで勉強しないといけないな」


和田くんが勉強し始めたら追いつけない存在になってしまうのだろうか? 塾に行こうにも近くには無いし誰かに教えてもらうこともできない。


さすがに雪くんでも無理だと思う。いくら雪くんがずっと勉強していたとはいえまだ1年生、2年生の勉強は理解出来ていないだろう。


まぁ1回聞いてみる価値はありそう。


「僕は今までの分も詰め込まないといけないから大変そうだな。それでも未来には負けないが」


「いちいち喧嘩を売ってくるな! ころされたいようだなおまえ」


「悪いけど未来如きにやられるほどやわじゃないよ。そもそも男に襲うということの危険を知ってくれ、僕は何もしないけど他の人なら返り討ちにされてそのままgo to bedお持ち帰りだよ」


私たちが関わっている男子はまともな人しかいない、それは私たちが大丈夫だと思った人としか友達になってないから。だけど未来は挑発されたらその人に向かっていきそうなのでその人がその気になって和田くんが言った通りになるだろう。


「だいぶオブラートに包んでくれてありがとう、でも私は和田くん以外の挑発は受けないから大丈夫だって」


「そうか? ならもし僕がそういう人に急変してしまったらどうなるんだろうね?」


「えっと、それは……」


「冗談さ」


真面目な和田の事だし誰かに手を出すようなことは無いと思う。そもそも和田くん自体そういうことに全然興味無さそうだし、それは雪くんにも言えること。


どちらかというと雪くんは興味が無いと言うより興味を持てないの方が正しいかな。怖いものに自ら突っ込んでいく人なんて極小数だしそもそもとして雪くんの体型がそういうことに向いていない。


「夏奈、僕はそろそろ帰ることにするよ。2人も放課後だからといって雑談し続けると時間はあっという間にすぎる、それに夏奈はもう少し周りを見たらどうだい?」


和田くんにそう言われて周りを見渡してみると扉の隙間から雪くんが覗き込んでいて、私と目が合うと嬉しそうに手を振ってこちらにアピールした。


「私も雪くんが待ってくれてるから帰るね」


「私も夏奈について行って帰るー」


「あはは、西園は人気な先輩から好かれてるとは羨ましいね。逆に未来と夏奈が手を出すなよ」


和田くんがそんなことを言い残して帰ってしまったので私たちは少し自重しながら帰路を歩き始めた。ちなみに雪くんはいつも通り真ん中である。

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