第16話
僕は雨音さんの家に来ていた。勿論雨音さんとお手伝いの人が出迎えてくれたのだが少し強面だったので雨音さんの後ろに隠れながら中に入った。
「とうとう2位の座まで取られちゃったか。俺もさらに勉強しないとな、さすがに3位以下にはならないためにも」
「柚希なら3位以下になることは無いだろう、雪とウチが圧倒的すぎるだけでウチたち以外の人からしたら柚希も充分圧倒的な部類だ。ウチたちに勝ちたいのなら塾に帰ってくるといい」
2人は元々同じ塾でその中でも飛び抜けていたらしいが柚希さんは雨音さんにどうやっても勝てないと理解してからは塾を辞めたらしい、まぁ学校の試験なら塾無しでも大丈夫と判断したからでもあるらしい。
塾なんて僕にとっては遠い話だ、何処にあるかも分からないし、僕にとっては塾代を払うくらいならもっと別のことに使った方がいい。
「じゃあ雨音さんは塾に通ってるんですね」
「ウチも既にやめているさ、柚希という競争相手が居ないんだからあの塾に居座る理由がない。あの塾にも塾長から誘われて入ったし、いつ辞めてもいいと言われてた」
そういえばまだ昨日言われた一緒に話したいことの内容を聞いていない。今している会話がその内容なわけは無いはずだ。
「そうそう、2人を呼び出した理由はね上位三人として話しておかないことがあるんだ」
「俺はわかる、まぁいつもの話だな。中学最初の試験の時もこの話をしただろう。まぁ忘れたらいけない事だからな何回も聞いて損は無い」
僕にはなんのことかさっぱりだ。上位三位ということは勉強や試験の話であることは間違いなさそうだ。
「ウチたちは入試で三位以内に入ったからこそ今回や今後の試験でもそれなりの順位が期待されてる。逆にウチたちが今回のテストで十位、そこら辺に入れなかったら周りからまぐれだったと印象付けられてしまう」
「そうだな、俺も体調不良の時に一度経験したからわかる。1度付いた印象は拭えない、まぐれだと印象付いたのならその次の試験で高順位をとってもそれでさえまぐれと言われる」
それが高順位を取った人のプレッシャー、ずっと高順位を取り続けないと周りからまぐれだったと言われ続けるとの事らしい。
高順位を取っても有名になるだけでそうやって嫌味みたいなことを言われることは無いだろう、それだったら目立ってもいいから高順位を取り続けるだけだ。僕の体で1番弱いのは心だから、知らない人から嫌味なんて言われたら今までの蓄積分も含めて僕の心は爆発しまう。
「ウチとしてはそんなことどうでもいいんだけど親がうるさいからね取らないといけないのさ。結局ウチは親の望む結果を出すだけだよ」
「俺もそんな感じだな、自由にやれてる雪が羨ましいところだ。何点でも怒られることがないんだから」
「高順位をとっても別に褒められたりしないんですけどね」
柚希さんがいるので本当の話をするのはやめておこう。雨音さんの友達とはいえ僕とは初対面なのでこんな話をするものじゃない。
僕は親に褒められなくたって夏奈お姉ちゃん達に褒めてもらうだけで十分だ。どっちにしろあの人たちは海外にいるので会うことすら出来ないがそれでいい。
「雪にもウチたちには理解できないことで苦労してことがあるんだ、そういう羨ましいとかを言わない方がいい。雪からしたら柚希やウチの方がよっぽど羨ましいだろうね」
「……」
「そうか、軽率なことを言ってすまんな雪」
雨音さんが言ったように僕からしたら2人の方がよっぽど羨ましい。勉強に対して少し厳しいとはいえ、しっかりと両親がいて家族として過ごせている。
それだけで僕は羨ましい、それが僕がどれだけ手を伸ばしても届かないモノだから。
雨音さんが僕たちをここに呼んだ理由の内容は話し終わったので僕は帰った。理由は雨音さんの親が帰ってきてしまったから、僕にとって大人が家にいる空間がなにより苦痛だ。
雨音さんの親がそんなことをするわけないことはわかっている、そう思うことが雨音さん達に失礼だと言うことも理解してる、だけど脳裏に浮かんでしまうんだ。家にいる
あの人たちは海外から帰ってきた時になにか行動を起こすのだろうか。僕に渡したお金を取り返す、ありえないとは思うが何かの利益のために連れ戻すか……。
どっちにしろあの人たちとはもう会いたくないのでまどの可能性も最悪であることには変わりは無い。
夏奈お姉ちゃんは未来お姉ちゃんと遊びに行こうかなと言っていたので家の中に入っても誰もいない。
「やっぱり僕は夏奈お姉ちゃんがいないとダメだと思うようになってしまったかな」
生活するための料理的な面でも、今までに空いた心の穴を埋めてくれるそんな存在だから。でもこんなことを言ったら夏奈お姉ちゃんに気を使わせてしまう。
夏奈お姉ちゃんと僕はシェアハウスをしているだけのただの他人、そう自分に言い聞かせて夏奈お姉ちゃんの帰りを待つ。
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