第15話

しばらく時が過ぎ、僕たちにとっては1回目の中間考査の日がやってきた。2年生や3年生は去年の復習と今年の内容を含めての試験らしいが1年生は今までの授業からの問題がほとんどらしい。


「雪、今回は手を抜いちゃダメだよ? ウチは真剣に雪と戦いたいと思ってるかさ」


「入試は代表挨拶っていう障害があっただけですよ。それが何のであれば僕はわざわざ点数を調整する理由もないですしお望み通り正々堂々の勝負ですよ」


入試と違うところをあげれば五教科ではなく九教科だというところだろう。いつもより勉強する範囲が多いわけなので入試のように上手くは行かないかもしれない。まぁ物理や化学、現国や古文に別れていたとしてもその分勉強時間を増やせばいいだけの話だ。


それは親元を離れている人だけの特権かもしれない。夜遅くまで起きていたら早く寝なさいと親に言われてしまうから。


「別のクラスだけど柚希とも勝負をしてるんだよ。それで二人共に負けたら元も子もないけどさ」


柚希は入試で3位だった人、雨音さんのコミュ力で高校に入って直ぐに友達になったか元々中学校が同じだったかは分からないが仲がいいのは間違いないと思う。


中学からの友達がいて新しい友達ができるまではなんやかんやその人とだけ過ごして何とかなる4月だが中学に通ってない僕に友達はいない、だから雨音さんのコミュ力にはとても助けられた。1人でも別に問題は無いがせっかく学校に通うことになったんだから友達を作ってみたかった。


「じゃあまた昼休みに弁当を食べながら話でもしよう」


雨音さんと別れてとりあえずはテストに集中する。別に試験の点数が低ければスマホを没収されたり罰がある訳でもないのでそこまで本気になる必要は無いのだがこれは勝負だ。


僕にとっては試験なんて本当に些細な問題だが本気で受けることで雨音さんという友達ができるのならそれでいい。


1限目、2限目と特に解けない問題があって絶望することも無く逆に目の前の人が絶望している姿を見ること数時間、4限目が終わり昼休みの時間となった。


「雪って一人暮らしなのに弁当だよね、家が近いのは知ってるけどさ1日ぐらいめんどくさいとか思わないのかい?」


「思わないですよ。料理を楽しいと思えるようになったら案外苦ではないです」


入学する前までに夏奈お姉ちゃんに料理を教えてもらったので弁当は自分で作っている。まぁ僕の分も夏奈お姉ちゃんが作ることもあれば夏奈お姉ちゃんが寝坊した時とかはぼくが2人分作ったりするが夏奈お姉ちゃんが寝坊することなって滅多にないのでほとんどは夏奈お姉ちゃんが作った弁当だ。


勿論今日のも夏奈お姉ちゃんが作ったのだが一昨日は珍しく夏奈お姉ちゃんが徹夜で勉強したらしく起きるのが遅くなって僕が作った。


「ウチは到底料理は出来そうにないね、まぁそもそもする気は無いんだけど。それで、試験の方はどうだい?」


「どれも簡単って感じですね。今までの全ての時間が勉強だった僕にとってあの問題は簡単すぎます、それは時間が余って暇になるくらいには」


普通なら遊んだり、登校してる時間にも僕は勉強をしていたんだ、初回の試験で詰まることは無い。


「余裕そうだね、まぁウチもそんな感じなんだけどさ。柚希はどうだろうね、いつも2番手狙いだけど今回は雪に抜かれたからね、相当勉強してるかもだ」


「2番手狙いってことはその柚希さんは雨音さんを越えられないと悟っているということですか?」


「そうだね、ウチが言うのは違うかもしれないけど柚希は中学からずっと僕を越えられなかった。ずっとウチを越える意気込んでた柚希はいつしか2番手を目指すことになった、ウチの頭脳が彼の自信を殺したんだって理解したよ」


柚希さんは雨音さんと出会うまでは誰よりも優秀で周りにも頼られていたのだろう。だけど自分より圧倒的に上の存在雨音さんに出会って、打ちのめされて、今までの自信を無くしてしまったのだろう。


もし僕が雨音さんに圧倒的なさを見せつけてしまったら雨音さんもこんな風になってしまうのだろうか……。


「上には上がいるもの、自分より圧倒的な存在なんていっぱい居るんだから柚希にはあんまり気にしないで欲しいんだ」


「天才というのは僕たちの知らないところにたくさん居ますからね。僕は天才じゃないですけどやっぱり努力は天賦の才を持った人には勝てない」


昼ごはんを食べて残りの二限を終えた僕は夏奈お姉ちゃんと試験の話をしながら家に帰った。家に帰ってすぐに雨音さんからメッセージが来ていた。


『雪、明日時間はあるかい? あるなら明日ウチの家に来てくれ、ついで柚希も呼んで話したいことがある』


『わかりました、僕は万年暇なのでとりあえず行きますね』


僕はスマホをしまって隣でスマホ画面をガン見していた夏奈お姉ちゃんを見つめる。


「勝手に他人のスマホ画面を見ないでください。僕も見ちゃいますよ」


「それはダメかなー、まぁ雪くんにちゃんと友達が出来て安心したよ、明日は楽しんできてね。せっかくの土曜日だし私は未来とどこか出かけようかな」


そういえば二人共が別々に出かけるのはありそうで今まで無かった。


まぁ学年が違うんだからそれぞれの友達と遊ぶのが普通でシェアハウスしているだけの僕たちが一緒に遊ぶことがおかしいのだと思う。僕がこんなのじゃかったらこの環境はなかったものかもしれないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る