第14話

学校が終わったあと、僕は病院に向かっていた。母さんはいつも通り仕事が忙しく帰って来れないらしい。


あまりこんなことは言いたくは無いが正直父さんが稼いでくれて分が残っているので母さんがそこまで必死になってやる必要は無い。父さんが今すぐにでも回復する見込みがあるのなら話は別だがあの日から数年、目を覚ましたことはない。


何年もこの病院に来ているので僕の顔は看護師さんに覚えられていた。



「……今日も来ました。それじゃあいつも通り数分後に戻ってきます」


「辛いのを我慢してお見舞いを忘れないのは凄いと思いますよ。それで今の容態は変わらずってところです」


「そうですか、いつもありがとうございます」


和田様と書かれた部屋に入ると変わらず目を瞑ったままの父さんの姿がそこにはあった。現地に来れない母さんにビデオ通話を繋いで父さんの顔を見せる。


『まだ、目を覚まさないのね。私も優吾もずっと待ってる、だから早く帰ってきて欲しいわね』


「僕も早く戻ってきて欲しいと思ってる。父さんが戻ってきて本当に家庭が戻ったと言えるからさ」


父さんが居なければ家族として何か物足りない、父親と母親の両方がいないと僕のような子どもは満足出来ない。昔のように3人でどこかに出かけたりすることもできない今では幸せとは言えない。


まだ父さんが生きているが世の中には亡くなってしまったという事例もあるだろう。本当に生きていてくれて良かった。


『私は後日向かうわ、優吾は気が済むまでそこに居てもいいよ。優吾は悪くない、だから優吾がそこまで気に病む必要はないからね』


僕が1番気になっている答え、あの事故は僕が悪いのか運転手が悪いのか。世間体に見たらほとんどの人は運転手が悪いと答えると思うが僕が引っかかっているのはあの時に僕が先を走らずに父さんの隣を歩いていたらこんなことにならなかった、だから僕も悪いんじゃないかとずっと考えていた。


「僕は未だに自分も悪いんじゃないかと思い続けてる。あの時の僕の行動が違ければ起こらなかった思うからさ」


『あの時私は居なかったけど、聞いた話だと絶対に優吾は悪くない。それでも気にするというのなら私は何も言わない、自分が悪くないと納得出来るまで自分で考えればいいわ』


僕は母さんとの電話を切り病院を後にした。


「案外、説明しても驚かれることは無かったな。比べるものじゃないとは思うが西園と比べたらまだまだ希望がある方だからな、諦めちゃいけないだろう」


西園は生みの親を知らない上に拾い親に捨てられたんだからな、本当の親がいる僕なんかよりも壮絶な経験をしてきているだろう。


「そんなことはいいか、僕は母さんに言われた通り考えないとな。僕が悪くないと納得するためにも」


僕は家に帰る前に神社に寄り『早く父さんが目を覚ましてくれますように』

とお祈りしてから家に帰った。



※※※



「息子さんとの電話は済んだ?」


「えぇ、あの子はお父さんのことが大好きだったので初めは落ち込んでいましたが今はだいぶマシになっていました。それが友達のおかげなのか自分で納得したからなのかは分からないですけど」


私は同僚と休憩室でタバコを吸いながらそんな話をする。タバコなんて今まで吸ってなかったけどお父さんが入院してから吸い始めてしまった。


「息子さんが見たら心配されるわよ、タバコなんてその場一瞬の気休めにしかならないのに今後の体を蝕むものなんだから。ただ別に悪いとは言ってないわ、タバコは必要な人には必要だからね、私もその1人」


タバコを吸う理由は気分転換やそれがリラックスタイムだからという人が多い。私だって気分転換に吸っている、隣の1日に数箱単位で吸う人とは違って私は1日数本なのでまだやめようと思えばやめることができる。


「あなたが必死に働く理由は知ってる、でも息子さんを1人置いていく必要はなかったんじゃない?」


「ここは給料が高いので、息子が何も気にせずに生活できるようにお金には余裕を持っておきたいんです。後遺症でお父さんが働けなる可能性もゼロではないので……」


こんなことを言えるのはこの人だけ、ただの同期だが他の同期の人にはこんな話は出来ないかもしれない。


「明日は有給をとって旦那さんのお見舞いに行くんでしょ。せっかくの有給なんだがら息子さんとの時間も作らないとダメよ、いつ縁を切られるか分からないからね」


「息子に切られちゃったんですか?」


「違うわ、私が親と切ったのよ。理由は今の息子さんと同じ状態だったから、だから忠告しておこうと思ってね」


話によれば小学生の時からずっと仕事と言って両親が帰ってこずに親戚の家で過ごしたり1人で過ごしたりする毎日だったらしい。たまに帰ってきても遊んでくれるわけでもなければ特別なことをしてくれるわけでもなくただご飯を食べるだけ。


そんなことが続いたから切ったらしい。私はちゃんと優吾との時間も取るつもりだ、今まで通り……いやお父さんがいない分その2倍の時間を優吾と一緒に過ごすつもりだ。


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