第12話
『明日、生徒会室に来て』
電話を繋げて初めに言われた言葉がそれだったので僕はしばらく無言のままでいた。
『沈黙は肯定ということで明日ちゃんと来てねー』
「え、ちょっ行きませんよ!」
何か問題起こしたわけでも、手伝いを頼まれた訳でもないのになんで生徒会室に行かないと行けないのだろう。単純に結衣お姉ちゃんが僕と会いたいだけじゃないか、というか僕の姿なら見かけてるだろう。
「ちなみに僕を生徒会室に呼ぶ目的はなんですか」
『雪と話すため?』
「今話してますよ」
『いや現実で話したいに決まってるじゃん。電話だと姿が見えないし』
「ビデオ通話にしましょうか?」
生徒会室に結衣お姉ちゃんだけしかいないということは無いだろう、僕が生徒会室行きを避けるために結衣お姉ちゃんと言葉のプロレス(?)をしながら周りを確認して夏奈お姉ちゃんがいないことを確認する。
「お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった?」
「そんなことないですよ、僕にとって唯一の家族で結衣お姉ちゃんのことは家族として好きです」
この世の中は血の繋がった姉弟は結婚することが出来ないし付き合うこともあんまりないだろう、ただし義理であれば付き合うこともあるし結婚することも出来る。結衣お姉ちゃんなら突発的にそういうことを言い出しそうなのでしっかり家族として好きと言っておいた。
さすがにあの日と今日しか話したことない義理の姉とそういう関係になろうなんて思わない。というか僕としてはほとんど初対面と変わらない義理の弟にそんな提案をして欲しくない。
『そっかそれは安心した。でもそれだったら生徒会室に来てくれても良くない?』
「とある人達に家族がいるってバレたら色々面倒なんですよ。今優しくしてくれているのもそういう理由があるからかもしれないですし」
『そんなことで対応を変える人だったら友達を辞めた方がいいよ。あたしだったらそんなこと気にしない、親がどうであれ雪は雪だから』
夏奈お姉ちゃん達ならそんなことは無いと思うが、僕という人間だから関わってくれているのか親がいない可哀想な人間だから関わってくれているのか分からなくなる時がある。夏奈お姉ちゃん達からすれば急に自分たちの中に入ってきた年下の孤児の男だ。
「まぁ結衣お姉ちゃんがそう言うならあんまり気にしないでおこうかな。その人と結衣お姉ちゃんが面識あったらあれだからこれ以上相談しないようにしときます」
『それは残念。それで結局明日生徒会室には来るの? 来ないの?』
「行かなかったらずっとうるさそうなので仕方なく行きますよ。余計なことを言ったらすぐ帰りますから」
『大丈夫、生徒会メンバーと話してもらうだけだから。生徒会に友達がいたら結構楽だよー? まぁ既にあたしがいるんだけど』
よく考えてみれば生徒会の人たちの仲良くしたら後の文化祭や体育祭で手伝わされるのでは……? そういう雑務はどちらかと言うと結構好きな方なので別にいい。それも散々やらされてきたからなのだが。
『話題は変わるんだけどさ、いつも一緒に学校来てる子って誰?』
「先輩ですよ、家が近くて僕がちょうど荷物を運んでる時に手伝ってもらいました。それで先輩後輩ってことを知って今に至るって感じです」
いずれ本当のことを話さないといけないと思うが今の間はこの嘘で何とか凌ぎたい。そういえば結衣お姉ちゃんのところには例の噂は入ってきていないのだろうか、夏奈お姉ちゃんの噂を知ってるなら見ただけでわかると思うが聞いてきたということは面識がないのだろう。
『ふーん、雪って掃除とか洗濯はできるけど料理は出来ないよね。一人暮らしでご飯はどうしてるの?』
「さっきの先輩に事情をなるべくオブラートに包んで説明したら折半してくれることになりました。僕が材料費と人件費を払ってる感じです」
『あたしが行ってあげてもいいんだよ?』
あの人たちは仕事で海外にいるので無駄に広かったあの家には結衣お姉ちゃん1人だろう。僕の家に来ても問題は無いと思うし正直僕が逆の立場だったら手伝いに行くのと同時にあの親から逃げれて一石二鳥だと思っているだろう。
「結衣お姉ちゃんも忙しいでしょうし大丈夫ですよ。明日はちゃんと生徒会室に行きますから、僕の家に来るようなことはやめてくださいね」
『そもそも雪の家は知らないからねー。なにかやましいものでも隠してるのかな?』
「隠してないですよ」
風呂場から物音がしたのでもうすぐ夏奈お姉ちゃんが出てきてしまうだろう。とりあえず眠たいという理由をつけて結衣お姉ちゃんとの電話を切った。
「あ、電話終わったんだ。じゃあ次雪くんが風呂に入ってねー」
「わかりました、僕は風呂から上がったらすぐに寝ますね。最近はちょっと寝れてなかったので」
最近はずっとあの時のことを夢に見て睡眠時間が少ない。寝てもその夢を見て目覚めてしまうことが何回も続いたので途中から起きて勉強していたこともあった。
今日はそんなことがなければいいのだが。
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