第10話

テストの話と言っても僕だけは一年生なので内容について話し合えることは無いだろう。全教科95点、合計475点ぐらいを取り続けていれば内申も十分だろう、まぁ雨音さんに勝負を挑まれたから手を抜く訳には行かないんだけど。


「この中で1番頭が悪いのは僕か。それでも未来とはさほど変わらないからいいが」


「お、なんだ喧嘩売ってるのか? 私より点数が低いのに何を言ってるのかな和田は。そんなに言うなら今回のテストで勝負しようか」


「はぁ、西園に感化されて未来もそんなことを言い出すか。勉強しようにもできない僕にほぼ互角なんだ、諦めて欲しいのだが」


夏奈お姉ちゃんから耳打ちで聞いた話によると和田お兄さんはさっき聞いた例の事情でバイトをしてるらしい。親からの仕送りはなるべく貯めておきたいらしく主にバイトで貯めたお金を使って生活をしていて勉強よりもバイトを優先してるとの事だ。


逆に未来お姉ちゃんはしっかり勉強しているが和田お兄さんとほぼ互角ということな和田お兄さんがしっかりと勉強する時間を取れば夏奈お姉ちゃんの点数も超えるかもしれない。


「雪くんは学年二位だけど、それも色々プレッシャーに感じることもあるんじゃない?」


「僕は普通にテストを受けただけなのでどうも思いませんね。でも先生に期待されてると言えばそうです、雨音さんにだけ期待して欲しかったですけど」


僕は高順位を取ろうと努力してこの高校を受験した訳では無いし、ただやることが勉強しか無かっただけで、もし僕が普通の家庭に生まれていたのなら成績も普通だったと思う。ただ一位にならないように調整しても二位だっただけの話だ。


本気で勉強をして高順位をめざしている人には申し訳ないと思うが僕は僕なりのやり方をしているだけだ。


「本気で努力しなくてもいい点数が取れる人って羨ましいなぁ」


「未来は普段から勉強してないからでしょ。雪くんはみんなと遊んでる時でも勉強してるから高順位なんじゃない?」


「まぁ僕は部外者ですし、元々友達だった3人の会話に割って入れるほどのコミュ力は無いので。僕がここにいること自体も本来はありえない事なんですけどね」


元々友達だった3人が遊んでる中に出会って間もない年下の僕が一緒にいることがありえないことだろう。僕が夏奈お姉ちゃんの弟とかならともかく、シェアハウスをすることになっただけで他人なんだからその友達と一緒に遊んでることは不思議である。


今はもう友達ではあるので遊ぶことには問題ないとは思う。僕も友達が出来たら家に呼びたいが同居人が夏奈お姉ちゃんなのでどうも家に呼びずらい。


僕の一番最初の友達はおそらく雨音さんになると思うがまだあんまりどんな人なのかわかっていないので家に招くのはもうちょっとあとの話だろう。


「あ、そろそろバイトに行かせてもらう。夏奈も西園も家に招いてくれて感謝する、僕みたいにバイト漬けにならないようにな」


夏奈お姉ちゃん達は親からの仕送りがあるので大丈夫だと思うが僕は追い出された時に渡されたこの通帳のみ。こんな額は普通に過ごしていれば無くならないが、今後遊びに行ったりすることも考えれば僕もバイトを始めないといけない日が来るのかもしれない。


元として僕もこのお金をあんまり使いたくないし、そこそこ先生の信用を得てからバイトを始めるとしよう。


「バイトを始める時はどうすればいいんですか? この中だと1番バイトをしないといけないのは僕だと思うので」


「先生に言って親のサインを貰えばできる。ただ西園の場合は親がいないからどうするんだ? 僕も親が直接サインは出来ないから電話で何とかしたが、西園はそれ以前の問題じゃないか」


「確かにそうですけど、事情を言えば先生も納得してくれるでしょう。疑われてもこっちは証拠があるので」


普段の生活費を払ってるだけでは無くならないのでまだ心配する必要もないだろう。友達もいないし頻繁に外に遊びに行くこともなければ大体は今みたいに家で遊ぶことが多いだろう。


和田お兄さんがバイトへ行ったので僕も少し緩くなる。


「雪くんがバイトってなんだか想像しにくいなぁ……。中学生とかに見間違われてもおかしくない見た目だからさ」


「お金は有限なのでいつかは始めることになりますよ。バイトするにしてもレジ係とか人と多く接触する仕事はできませんから、夏奈お姉ちゃんが心配してるようなことは起きませんって」


僕の見た目なら働いていて問題になることは理解できるので働くとしても裏方、客とあまり接することの無い仕事を選びたい。今のところはバイトをしないといけない予定は無いので考えるのは後回しでいいだろう。


「あ、ちょっと電話がかかってきたので出ていいです……か?」


「いってらっしゃーい」


表示された名前を見て切りそうになってしまったが何とかこらえてお姉ちゃん達に聞かれない場所まで移動した。


『入学おめでとう、雪』


「はぁ、そんなことを伝えるために電話をかけてきてなのなら切りますよ? 僕はあんまり結衣お姉ちゃんと関わりたくないんですから」


『つれないなぁ、学校で会っても他人のフリされるしお姉ちゃん悲しいよ?』


そうしなかったら面倒くさいことになるだろう。夏奈お姉ちゃん達には家族はいないと言ってあるし、そもそもとして結衣お姉ちゃん自体が有名だしこれ以上僕も噂されたくない。


夏奈お姉ちゃんが学年一の美少女だと知った時でも大変だったのに僕が副生徒会長結衣お姉ちゃんの義弟だということがバレたらもっと大変だろう。


「いま先輩たちと遊んでるので雑談は夜にして貰えますか。言っておきますけど学校では話しませんからね」


『そりゃあ残念、それじゃあまた夜にねー』


僕は結衣お姉ちゃんとの電話を切って夏奈お姉ちゃん達の元へと戻った。

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